西欧文化とは「インテグリティの文化」である ビジネスにも役立つ、超実践的な文化論

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カスリス教授自身はリトアニアの家系出身で、文化的にはインティマシーを前景とする家庭で育ったのだが、移住したアメリカ社会においては、インテグリティを前景にして生きてきたという両面性やそこで感じた違和感が、この二つの違いを気づかせるきっかけになったのだと言う。

「人として」大事な「根」の部分

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契約を重視する超インテグリティの社会がアメリカで、その対極にある村的な超インティマシーの社会が日本だとすれば、本来、両者は最も理解しにくい相手同士であり、こうしたベースの違いを意識して、あたかもバイリンガルが英語と日本語とをきれいに使い分けるように、それぞれを自覚的に使い分ける必要があるのではないかというのが、カスリス教授の主張である。

そして、それをやらない限り、今のIS(イスラム国)などによるテロの頻繁、Brexit(EUからのイギリス脱退)の問題、アメリカでのトランプ候補問題に見られるように、文化的な衝突が生まれ、世界が不安定化してしまうというのが、カスリス教授のポイントなのだと思う。

実際のビジネスシーンを見てみると、世界にあまねく進出して成功しているインド出身のビジネスマンは、常に英語で会話している訳ではなく、仲間内ではローカル言語で話していることが多く、グローバルビジネス社会で生き抜いている人々は、皆、こうした使い分けをうまく実践しているように思う。

また、自分の過去の経験に照らし合わせても、人が自覚しているかどうかは別として、外資系企業で働く日本人の中にもこうした使い分けをうまくできていて、日本語を話している時と英語を話している時で、まったく別人格になる人は結構いるように思う。

そこで思い出すのは、以前ベストセラーになった INSEADのエンリ・メイヤー教授の『異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』である。原題は"THE CULTURE MAP breaking through invisible boundaries of global business"で、こちらの方が内容をよく表しているが、ここではグローバルビジネスが二国間から多国間へと拡大する中で、例えば同じ英語を話すイギリス人とアメリカ人でも文化は大きく異なっており、それを理解すればビジネスシーンでのコミュニケーションの質が劇的に改善するということが書かれている。

この本もビジネス書らしく非常に分かりやすく、グローバルなビジネスシーンにおいては実践的で極めて有用なのだが、どちらかと言えばノウハウ本であって、カスリス教授のように文化のレベルにまで深掘りはしていない。従って、この二冊を合わせ読むことによって、プラクティカルにもまたアカデミックにも、更に深い洞察が得られると思う。

哲学書というのは通常、あまり部数が出ないのだろうと思うが、少し切り口を変えて、この『インティマシーあるいはインテグリティ』を哲学の本としてではなく、コンサルタントとコラボレーションして、グローバルなビジネスシーンにおける異文化理解のための経営書として売り出したら、かなりの部数が出るのではないかと思った。(余計なお世話かも知れないが。)

今、日本の大学では、理系が実学志向を強め、実業界とのパイプを太くすることで生き残ろうと努力している中で、文系(特に人文科学系)は「文系不要論」のような方向に追いやられつつあるが、ここで取り上げたカスリス教授の実践的な文化論などは、多くのビジネスマンが最も聞きたい話のひとつなのではないか。そして、日本の大学の文系が生き残るひとつの道筋がここにあるのではないかと思った次第である。

堀内 勉 多摩大学社会的投資研究所教授・副所長、HONZ

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ほりうち つとむ / Tsutomu Horiuchi

外資系証券を経て大手不動産会社でCFOも務めた人物。自ら資本主義の教養学公開講座を主催するほど経済・ファイナンス分野に明るい一方で、科学や芸術分野にも精通し、読書のストライクゾーンは幅広い。

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