会社組織とは「男vs男」の官能劇場である 上野千鶴子さんが語る「女の処世術」

拡大
縮小

でも夫に言わないと、絶対に変わらないよね。なのに彼女たちは、「でもいいんです、夫に言ってもどうしようもないから」と。相手を追いつめてないんです。「いいんです、あたしたちもう終わってるんです」って。だから、「えっ、終わった男と、これからの後半生、一緒に過ごすの?」と言うと、ドキッとしたような顔をする。「あなた、心許せない人を相手に、パンツ脱げるの?」って。

でもね、そう言うと、今度は、ほろほろと泣くの。でもね、泣くくらいなら、直接、自分の夫に言ったら、と思うわけ。夫婦の関係って、私が若かった頃から、こんなに変らないのか、とがく然とします。

「祖母力」を発揮させてはならない

書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

生まれたばかりの赤ちゃんは、ひ弱で、泣きわめいて、自己チューで、自分で生きることができない小さなモンスターみたいなもの。そんな人生最大のテンパリ期に、手も足も出さない男がそばにいるのは、妻にとっては、すさまじいストレスです。妻が育児で追い詰められたとき、夫は助けてくれたかというと、助けてくれなかった。そのときの恨みつらみは、その後の人生で、フラッシュバックしてくる。

だから、私は子どもが出来たばかりの若い男性には、こう忠告します。「いま、子育てをしないと、あとでずっと妻から恨みを言われるよ」と。

一方で、あまりに夫が使えないので、かわりにおばあちゃんが赤ちゃんの面倒を見ることで解決する、というのも聞きます。いわゆる祖母力を発揮する、というパターンです。

けれども、おばあちゃんが子育てに乗り出せば、夫は育児からとめどなく手を引きます。そうすると夫婦のあいだに、葛藤も起きないかわりに、交渉も起きない。となると、解決策に見えて、夫婦関係を見直すきっかけを奪うことになるかもしれない。

一時的にはよくても、長い目で見ると、夫婦関係は壊れてゆく可能性もあります。祖母力を発揮したい同世代の女にはそう忠告しますが、ドキンとした顔をする。言われてみないと気がつかないのでしょうね。(後編に続く)

上野 千鶴子 社会学博士。東京大学名誉教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

うえの ちづこ / Chizuko Ueno

一九四八年富山県生まれ。京都大学大学院修了。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして教育と研究に従事。著書に『家父長制と資本制』 『おひとりさまの老後』『在宅ひとり死のすすめ』などがある。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT