ビタミン欠乏で作る!「霜降り肉」の衝撃事実 20年前に「A5牛肉」は存在しなかった

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おそらく20年前の格付け最上級の肉は、赤身肉とサシのバランスが程よく、本当においしかったのだろう。しかし、今、私たちが口にするA5の肉は、牛という動物の長い歴史の中のここ20年ほどに現れた、いわば未曾有の霜降り度合いになっている。それがイコール「おいしい」とは言えないというのが現実だと思う。いかがだろう。マスメディアの情報や飲食店などで「A5の肉が最上級」と連呼され、それがおいしさとイコールの関係になっていると思っていた人には、驚きなのではないだろうか。

ところで、このA5に到達することを目標に、全国の畜産農家や研究者が得た知見で、今、広く実施されている技術がある。それは「ビタミンコントロール」と呼ばれるものだ。これこそ日本の牛肉の現状をよく象徴する技術となっていると思うので、次項に簡単に説明していく。

ビタミンコントロールという「技術」

サシが多量に入るというのは、本来は不自然なことだ。というのは、通常は脂肪というものは皮膚の下や筋肉の間、そして内臓の周りにつくのが普通だからだ。

では、肉に含まれる粗脂肪量が50%を超えるような牛肉がどのようにして生まれたのか、大きく2つの要因がある。まずひとつは品種改良というもので、サシが入りやすい血統の牛を選抜していくことで昔よりもサシが多量に入るようにしたこと。もうひとつが、人為的にサシを入れる技術であるビタミンコントロールだ。

肉牛を生産する農家を「肥育農家」と書くが、これは文字どおり「肥らせて育てる」という行為だからだ。体を大きく育て、かつサシが多量に入った肉になることが望ましい。そこで、どのような餌をどの程度与えればよいのかという研究が、全国で行われてきた。その過程で発見され、普及したのがビタミンコントロールだ。

どんなものか。実際には「コントロール」というよりも「ビタミン欠乏」と言ったほうがよい。肥育期間をいくつかに分けたうちの中期と呼ばれる段階で、餌に含まれるビタミンAを制限、つまり与えないようにする。そうすることで結果的に、BMSナンバーは高くなり、ロース芯と呼ばれる部位の面積も拡大する。つまり、ビタミン欠乏によって格付けの上位を狙うことができるのである。

ただし、おわかりのとおり、ビタミンAは必須栄養素である。それを制限しすぎると、当然ながら牛に悪影響を及ぼすこともある。そこで、健康状態は保ちつつもサシや肉の歩留まりを向上できるようなギリギリの欠乏状態を保つというのが「ビタミンコントロール」なのである。ただし「コントロールしている」とはいえ、ビタミン欠乏が一定以上になると、牛の目が見えなくなったりと、さまざまな病気が発生しやすくなる。粗脂肪量が50%以上にもなるのだから、ビタミン欠乏以外の要因によっても、肉牛の体調は悪くなる。

ちなみに、肉牛の生理についていろいろ教えていただいている獣医師の先生によれば、「上手に飼う農家さんの肉牛は、A5になるものも意外と健康ですよ。健康でなければ餌をそんなに食べることはできませんしね」とのことだ。だから、ビタミンコントロールという技術自体を「よろしくないものだ」と断じるつもりはない。

次ページけれどもやはり……
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