生乳減産で大誤算 バター不足の内情
バター不足が深刻化している。「昨秋から販売量が制限されるようになった。国産から輸入に切り替えたら、味が違うとクレームが来た」と都内の洋菓子店は苦慮する。スーパーの売り場担当者も「3月以降、バター入荷量は10分の1以下に減った。店頭に並べても15分で売り切れる」と困り果てる。
長引く品薄の状態を受け、4月末に若林正俊農林水産大臣は、乳業メーカーに対し、異例の“バター増産”を要請したと発表。5月は家庭用バターの月間消費量の2割に相当する230トンが増産される。農水省の牛乳乳製品課は「これで店頭からバターが消えることはなくなる」と安堵するが、増産を了承した乳業メーカーは「5月は増産するが、6月以降は未定」と慎重だ。バター不足が完全に解消とはいきそうにない。
生乳廃棄を契機に農水省が減産を主導
空前のバター不足を招くきっかけは2年前。学校給食が春休みに入った2006年3月末に、北海道で900トンもの生乳が廃棄された。通常、余剰乳は長期保存できるバターや脱脂粉乳の生産に回される。だが、余剰乳の“調整弁”だったバターは、すでに過剰在庫状態にあり、製造工場の処理能力も限界に達していた。
生乳が産業廃棄物として処理されたニュースは全国へ広がり、社会問題に発展する事態となった。これを重く見た農水省は生乳生産量の削減を主導、業界では06年度の生産目標を前年度の3%減とした。一部の乳牛は食用に回され、同年度の生乳生産量は前期比97・5%まで縮小。減産はひとまず成功した。
ただ、少子高齢化の影響で牛乳消費は毎年3%ずつ減少しており、一時的な減産でしのいでも、再び余剰乳が発生することは明らか。そこで声を上げたのが生産者団体のホクレンだった。乳業メーカーに「北海道に国産チーズ工場を建設しませんか」と呼びかけたところ、雪印乳業、明治乳業、森永乳業の大手3社がこれに応じた。国内で販売されるチーズの9割は輸入品を国内で加工したもので、国産への切り替え余地は大きい。牛乳と違い、ナチュラルチーズは年間2ケタ成長で市場が拡大しており、メーカーにも好都合。酪農関係者はチーズ工場稼働による余剰乳解消に大きな期待を寄せていた。
しかし、世界的な需要の変化が思わぬ事態を招く。経済成長が続く中国とロシアで乳製品の輸入が急速に拡大。そうした中、06年には乳製品輸出国である豪州が干ばつに襲われる。これで乳牛の飼料が不足し搾乳量が激減。EUでも輸出奨励措置を縮小し、輸出量を大幅に減らした。
需要が増える反面、供給が減るという悪循環。06年は乳製品の国際相場が上昇し高止まりが続いた。「ファンドの投機マネーが流入しているのでは」とうわさも流れ始め、価格はさらに上昇。07年にはチーズやバター、脱脂粉乳など国際相場は前年の倍近くまでハネ上がった。