生乳減産で大誤算 バター不足の内情
増やしにくい生乳量 供給不足は長期化も
日本の加工食品メーカーは、国際相場急騰の影響をもろに受けた。バターを大量に使うパンや菓子、飲料の大手メーカーは、バターに砂糖や小麦粉を混ぜた低関税の調整品を輸入し、コスト抑制に努めてきた。しかし、相場が一気に上がったことで低価格の調達メリットは薄れた。国際相場の動きも読みづらくなり、メーカーは価格の安定している国産原料へ目を向け始める。
一連の複合的な要因により、昨年秋ごろから国内のバター不足が顕在化。しかも、この年は猛暑の影響で乳牛がバテて搾乳量が減っており、国内メーカーの需要増加が追い打ちをかける格好になった。業界ではバターの適正な在庫水準が2万トンとされる。だが、昨年末の在庫量は1万3000トンと、かつてない水準まで落ち込んだ。年が明けても供給不足は解消されず、原材料確保に窮したケーキ店がスーパーで買い求めた結果、家庭用までもが品薄となった。
原料の生乳はまず賞味期限の短い牛乳向けに使われ、次いで生クリームやヨーグルト、チーズに振り向けられる。“調整弁”のバターに来るのは最後。つまり、大口需要に合わせて急激に生産量を増やせるものではない。しかもタイミング悪く、今年から北海道で大手乳業メーカーのチーズ工場が続々と稼働し始める。「生乳をチーズとバターのどちらに使用するか、本当に悩ましい」と乳業メーカーは頭を抱えている。
北海道では08年度に3%増の生乳生産を計画するが「ギリギリまで引き上げた目標がこれ。達成できるかわからない」(ホクレン)。乳牛は3年間の肥育期間が必要で、増産は容易でない。酪農農家は高齢牛からの搾乳や、飼育環境の改善などで必死に生乳量を増やすのが実情だ。
こうした状況下、トウモロコシなどの配合飼料価格の高騰で、廃業に追い込まれる酪農農家も増えている。4月から牛乳が値上げされたが「再値上げしないと赤字は膨らむ一方」(千葉県の酪農農家)と業況は厳しい。「国際相場が落ち着き国内メーカーが再び輸入を増やせば、一転して生乳減産に追い込まれるのでは」という不安もある。店頭にバターが充実する日はまだ遠そうだ。
(前田佳子 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)
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