中選挙区制の罪深さ、育てるべきは政党だ ノスタルジーを捨て、今考えるべきこと

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ノスタルジーはいらない!真に考慮すべき代替案

現行制度に対する代替案として考えられるべきは、特に拘束名簿式の比例代表制や同一政党の候補者間で票を分け合う移譲式の選挙制度だろう。これらは、同じ政党の候補者が競争相手になる中選挙区制や、同じ政党の候補者と関係を持たない小選挙区制とは異なり、候補者間の協力を促す選挙制度である。

政党に所属する候補者同士が協力して組織を作っていくとともに、有権者の側も候補者ではなく政党を基準に投票を行うことが期待される。

候補者個人ではなく政党組織が重要なものだと認識されれば、「経験不足の新人」も政党という組織の目標に貢献するし、その中で「天下国家を語ることのできる優れた政治家」を育てることもできる。

重要な論点を平易かつ丁寧に記述。いま選挙制度改革にあたって、まず読まれなくてはならない本(加藤秀治郎 『日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか』 中央公論新社、2003年)

さらに、このような選挙制度は民意の分布をより正確に選挙結果に反映できる。小選挙区制では得票率と獲得議席率の乖離が問題になるが、比例代表制や移譲式の選挙制度ではその問題は小さくなる。

ある選挙区で、複数の政党の候補者が選ばれる中選挙区制も一種の比例代表制と考えられるが、小選挙区制とは反対に、少ない得票率でも獲得議席率が大きくなるため、正確な民意の反映とは程遠い。この点でも中選挙区制は質の良くない代替案でしかない。

結局のところ、小選挙区制のような地域の代表を選ぶ制度と、比例代表制のような政党を選ぶ制度のどちらに力点を置くかが問題になるのだ。近年では、日本がそうであるように、多くの国で両者の混合制度も導入され、その効果が議論されている。

選挙制度改革に向けて必要なのは、中選挙区制への回帰のようなノスタルジーではない。政党組織や議員行動に与える影響を考えて制度の最適な組み合わせを目指す議論だ。 

 

【初出:2013.2.2「週刊東洋経済(日立に学べ!)」

 

(担当者通信欄)

選挙区内で複数の当選者を出さなければならないために、党内の候補者同士の対立と競争が激化。また同じ理由から、各候補者が、所属政党からの全面的な支援を受けにくく、特定の組織・団体や党内の派閥に資源に依存することで、政治腐敗を招いてしまう。それが中選挙区制の問題点なのですね。ある組織や個人が望ましいと考える制度、そこには、彼(ら)自身にとって都合の良い理由となる何かが存在しているわけですが、その問題点を私たち自身が踏まえた上で受け止めると、「○○は□□という制度を支持する」という同じニュースでも理解がグッと深まります。

さて、砂原庸介先生の「政治は嫌いと言う前に」最新回は2013年2月25日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、2030年あなたの仕事がなくなる)」に掲載です!
【選挙制度改革の「選択肢」、統治の根幹をどう作る?】
小選挙区制のような多数代表制と呼ばれる制度は、いわば勝者総取り。一方の、比例代表制では、さまざまな政党から代表が選出されるため小党分立が起こりやすい。集中か?分立か?

  

売れ行き好調、 砂原先生の最新著作! 『大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書) 橋下改革の最前線にある大阪市立大学から、地方自治の専門家として国家と対峙する大都市「大阪」の来歴と今後を議論します!

 

砂原 庸介 政治学者

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すなはら ようすけ / Yosuke Sunahara

1978年7月生まれ。2001年東京大学教養学部卒業、東京大学大学院 総合文化研究科 国際社会科学専攻にて2003年修士課程終了、2006年博士後期課程単位取得退学。2009年同大学院より、博士(学術)。財務省・財務総合政策研究所の研究員、大阪市立大学などを経て、2013年より大阪大学 准教授。専攻は行政学、地方自治。地方政府、政党の専門家として、社会科学の立場から学術研究に注力する。傍ら、在阪の政治学者として、地方分権や大阪の地方政治について、一般への発信にも取り組む。著書に、『大阪―大都市は国家を超えるか(中公新書)』(中央公論新社、2012年)、『地方政府の民主主義―財政資源の制約と地方政府の政策選択』(有斐閣、2011年。2012年日本公共政策学会 日本公共政策学会賞〔奨励賞〕受賞)、共著に『「政治主導」の教訓:政権交代は何をもたらしたのか』(勁草書房、2012年)、『変貌する日本政治―90年代以後「変革の時代」を読みとく』(勁草書房、2009年)など。
⇒【Webサイト】【ブログ sunaharayの日記】【Twitter(@sunaharay)

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