続いて、夏の蔵の様子ですが、酒造りについて書かれた本やサイトは多々あれど、夏の、つまり酒を造っていないときの蔵で何が行われているのかは、「?」。わたしもお話をうかがって、「へぇー」と感心してしまいました。
「浦霞は、3季醸造といいまして、秋・冬・春の3シーズン、酒造りを行っています。なので酒造りが休みの夏場は、蔵人総出で、蔵の掃除を行います。床や天井もくまなくせっせと雑巾がけをし、槽(ふね)と呼ばれる酒を搾る機械や洗米機なども、すべてばらして洗浄します」
天井まで雑巾がけですか。落っこちたら大変ですね。
「蔵人は慣れてますから。とにかく、見に行くと、いつもせっせとどこかしら磨き上げていますよ」
酒造りへの愛ですね。蔵人であることの誇りがそうさせるんでしょうか。あ、えらそうなことを言ってすみません。
「木桶も洗います。いまはどこの酒蔵もほぼステンレスですが、うちは2004年から木桶を使った酒造りを半世紀ぶりに復活させ、年に2回限定販売を行っていますが、好評です」
飲んでみたいなぁ。ちなみに、その昔、酒造りの現場では納豆は御法度と言われていたそうです。いまはそんなことはないそうですが、日本酒がそれだけ繊細な酒だということなんですね。
蔵の歳時記、最後に、日本酒が他の醸造酒とどこが違うのか、何のために杜氏、蔵人たちが寒さに凍えながら、寒造りに格闘しているのかを、荻原さんとの対話からご紹介したいと思います。
「日本酒と同じ、食中酒であるワインは、新酒が出ると、今年の出来映えはどうだ、なんて、去年までの味と比べていますよね。でも日本酒は……」
「日本酒にはそれは許されません。気温や天候、気象条件が違っても、毎年、変わらない『浦霞』の味をお客様にお届けしなければならないのです。ほんの微妙な差でも、『変わったね』と言われますから」
毎年、毎年、まっさらなお酒。でも味わいは、日本に生まれたことの喜びを与えてくれる変わらない旨さ。
それが名門ということなのですね。荻原さん、寒造りの忙しい時期に、ほんとうにありがとうございました。
取材協力:浦霞醸造元(株)佐浦
イラスト:青野 達人
次回は3月8日(金)掲載。テーマは、「『若者の酒離れ』は、本当か?」です。
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