為末さん、スポーツ界は息苦しいですか? 「無菌型」の管理が、体罰へつながる

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為末:実業団チームの食事を見に行ったことがあるんですが、どうやってカロリーを減らし、おいしさを追求するか、すごい技術が凝縮されている。彼女たちは毎日、朝と晩にグラム単位で体重を測らないといけなくて、それを監督がチェックするんです。何を食べると次の日、何グラム重くなるかを全部把握している。ああいうレシピって、世の中にまだあんまり出ていないから、何か生かせるんじゃないかって思っていて。

田中:なんか、タニタ食堂のレシピのバージョンアップ版ですよね(笑)。

為末:ええ。そういう特殊スキルを紹介していくのも面白い。

田中:面白いですね。そういう意味では、プロスポーツ選手が引退後にまったく違うことを1から勉強してビジネスをやるというよりは、選手時代にビジネスに生かせる「資産」がすでにあると思います。

でも、ビジネス側の人間がスポーツ選手にアクセスするのが難しいんですよね。最近、私、元プロ野球選手の方とひょんなきっかけで知り合ったんですが、そんな出会いは年に1回あるかないか。ほとんど接点がないので。

為末大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。1993年、全 日本中学校選手権100m・200mで二冠、ジュニアオリンピックでは当時の日本記録を更新。以降、インターハイ、国体、世界ジュニア選手権などで短距離 の新記録をマーク。法政大学へ進み、日本学生選手権400mハードル3連覇。シドニー、アテネ、北京五輪に出場。世界選手権では2001年エドモントン大 会にて3位に入り、トラック競技で日本人初のメダル(自己ベスト47秒89を記録)、2005年ヘルシンキ大会でも銅メダルを獲得。著書に『日本人の足を速くする』『走る哲学』『走りながら考える』など

為末:ああ。

田中:スポーツ選手からご覧になられて、ビジネスの世界ってアクセスしやすいですか?

為末:いや、たぶんしにくいと思いますね。僕は相当、意識してアクセスしているほうですが、逆に意識していないと、どんどん孤立していってしまう。そうすると、先ほどの低カロリーのおいしい食事のレシピにしても、選手たちはその価値に気づけない。自分たちは当たり前の知識だと思っていて、僕が選手を褒めても「私、こんなことぐらいしか知らないし」とかって言いますし、監督に「すごいですね」と言っても、「そんなの誰でもやってるよ」って。いや、世の中の人は誰もやってないんですけど……という(笑)。

田中:アクセスする接点がないという問題の前に、そもそもスポーツ選手が外の世界で人と交流すること自体、一意専心じゃないと思われてしまうという空気があるんでしょうか?

為末:それはありますね。「人に会いすぎるな」と言われている選手は多い。

田中:えっ、そうなんですか?

為末:「ほかの世界と交流すると気が散る」という理由で(笑)。

田中:あははは。

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