為末さん、スポーツ界は息苦しいですか? 「無菌型」の管理が、体罰へつながる

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田中:為末さんが現役時代から意識して外に出られていたのは、なぜですか?

為末:ひとつは引退後のためですが、単純に外の世界の人と交流するのが面白かったんです。それと、スポーツでトップになっちゃうと、いろいろ難しいんですね。僕の場合、中学のときに日本記録を出して、要は指導者を含めてトップに立ったわけです。するとコーチがいなくなるというか、アドバイスを受けにくくなるというか。

ビジネスの世界でいうと、メンターよりもすごい成績を出しちゃった新入社員みたいな感じですかね(笑)。

田中:ああ(笑)。

為末:でも、外の世界の人と会うと、僕は何かしら必ず負けているので、そういう意味でやりやすかったんです。あと、外の世界の人と話していると、自分が欠けているものがよくわかる。物事を抽象化して説明したり、論理的に考えたりするスキルがずいぶんと鍛えられました。

僕、外の世界の人と話してて、自分がしゃべっている内容の矛盾点を最初から最後までずっと突かれたことがあります。嫌なオヤジがいて(笑)。

田中:あははは。

大阪ガスの研修で褒められたこと

為末:やっぱりスポーツ選手ってそういうスキルが弱い気がするんです。それが意外と許されちゃうんですね。インタビューされて、話の初めと終わりが破綻してても、「スポーツ選手ならいっか」みたいな(笑)。

それで、スポーツの世界だけにいたらマズいと思いました。もともと好奇心は強かったんですが、外に出ようと意識する前は、会う人が陸上の人ばっかりでしたね。

スポーツの世界にいると、「頭が悪いんだからスポーツをやってろ」って周りに言われるんです。僕自身もそうだと思って、「スポーツで生き抜くんだ」って頑張ってたんですけど、大阪ガスに入って、東大や京大卒の社員たちと研修を受けたんです。チームを組んでモノを売ったり買ったりする交渉をしなきゃいけなかったんですが、彼らは意外と動きが鈍くて、僕はなんか早々と交渉がうまく進んだ。そうしたら研修の先生に褒められて。

僕は外の世界で褒められることがあるなんて、まったく思っていなかったので驚きました。そりゃあ、駆けっこだったら人より速いのはわかってましたけど(笑)。

田中:ははは。

為末:これ、もしかして陸上以外の才能が自分にあるのかなと思ってしまったんです。それが23歳ぐらいで、その頃から外の世界の人と積極的に会うようになって、自分の意見をどんどん話し出したら「君は賢いかもしれない」って言われたり(笑)。

あのとき、研修の先生が褒めてくれなかったら、今頃、自分はどうなっていたかって、ちょっと思いますね。

田中:大阪ガスからプロ転向されますが、その褒め言葉が影響していますか?

為末:はい、かなり。僕は会社に残るつもりだったんですが、自分は全然違う世界でも何かを成せるかもしれないとか思い始めちゃって。有名人になれるかもとか、経営者というものになれるかもって漠然と考え始めて、それでプロになりました。

まあ、全然スポンサーがつかなかったんですけど、そのときは全然オッケーみたいな気分になってました(笑)。

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