アイパッドのアイデアは昔からあった
ジョブズと私は、ジョブズがネクストコンピュータを立ち上げたくらいの頃から付き合いがありました。実はその頃から、今のアイパッドのような製品のアイデアはあったのです。
しかし、それを見た当時のジョブズは、「こんなのダメだよ」と言ったのです。「早すぎる」と。
ジョブズはその製品のアイデア自体は認めていたのです。しかし、時代がまだ追いついていなかった。それにはいろんな理由があったと思います。ユーザーがそのレベルに達していない。キーボードの時代がこれからしばらく続くということ。液晶やタッチセンサーの技術がよくない。メモリのスピードも遅すぎました。だから、ジョブズはその時点では否定したのです。
しかし、ジョブズはそのアイデアをずっと温めていたんですね。そして、技術など環境が十分なレベルに達したときに、アイパッドを製品化したのです。
アップルがいち早く導入して、今では当たり前となったパソコンのアイコンも同じです。もともとゼロックスがつくった技術をジョブズが採用して、コンピュータの概念を変えるほどのものになった。過去の延長線上に未来はないと言いますが、特殊な例外を除いてそれは間違っています。
「最先端」とは何か
最先端とは何かというと、まず時代のニーズを見ることです。時代のニーズに合うものであれば、20年前のアイデア、技術でも最先端になります。古いものを最先端の技術でつくることがいちばん儲かるんです。古いものを古い技術でつくったらこれはダメ(笑)。新しいものを最先端の技術でつくったら、これはだいたい儲かりませんね。
ジョブズのすごさは、この「時代を見る目」にあったのです。そして、温故知新をずっと続けてきたのです。
私の場合、キヤノン時代にパソコン事業に携わり、手書き入力方式の携帯型コンピュータなど、当時としては画期的な製品を開発したこともあります。しかし、発売のタイミングが10年か20年早すぎたと言われ、なかなかうまくいかなかった(笑)。
早すぎてもダメだし、遅すぎてもダメ。ちょうどいいタイミングでないとうまくいかないのです。
マネジメントにおいて大事なのは目標を掲げることです。自分のやりたい目標が明確でないマネジャーの下では部下は育ちません。1人で幅広い知識を持っている上司はいません。自分はこの知識を持っている。ここが足りないというときに、そういう人材を育てたらいいのです。
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