ISSは米国、ロシア、日本、欧州、カナダの15カ国が参加する国境のない場所だが、通常の運用体制のレイアウトは日・米・欧・加の米側チームと、ロシアチームの大きく2つのセクションに分かれている。
当初、西側諸国だけで進められていたISS計画は、後からロシアが加わったという経緯がある。そのためISS内でも設計仕様はロシア側とそれ以外の米側エリアでかなり異なるのだ。
さらにロシアモジュールを地上から運用するのはNASAではなく、モスクワにある管制局「ツープ」。そこでロシアモジュールで緊急事態などの問題が発生したときは、経験豊富なチューリン氏の能力を存分に生かそうというわけだ。
しかし、宇宙という現場で全体を指揮し最終判断をするのは、あくまでISS船長である若田。緊急事態に、現場責任者と船長がうまく連携を取り、チームを正しい方向に導けるのか。それには、実力でもって信頼を勝ち取ることが大事、と若田は考えているようだ。
この数カ月、若田らはロシアで緊急事態を模擬した試験を繰り返し行っている。2月には実際に気圧を下げた環境下で、本番さながらの急減圧時の緊急対応訓練が待ち受ける。
歴代の宇宙飛行士を送り出した教官らが立ち会う中、ケース・バイ・ケースでの状況判断を的確に行い、緊急事態から「生還」するためのリーダーシップを取ることが船長に要求される。「訓練できちんと結果を出すことが仲間の信頼につながる」。若田は表情を引き締める。
若田は決して弱音を吐かない。笑顔の裏で、あえて人がやらない過酷な訓練を自らに課すストイックな面を持つ。座右の銘は「守りに入るな」。見た目はソフトだが、内には強い責任感と厳しさを秘めている。人並みならぬ努力家であることが、彼のリーダーとしての資質の1つである。
関係部署との調整のうえ、メンバーが納得のいく仕事を割り当てること、そして船長である若田自らも、部下や地上チームが信頼を寄せるに足る実力を見せること。ミッションの正否を分けるのは、地上での徹底的な準備。11月の打ち上げに向けて、若田は着実に成功への階段を上っている。(=敬称略=)
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