宇宙飛行士100人のトップに立つ男 宇宙の”中間管理職”に学ぶ、「調整力」

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「フライトエンジニアの訓練をすでに受けていた私が担当するのが、宇宙飛行士たちの訓練負荷を少なくする点では妥当でした。しかしNASA宇宙飛行士室長からの強い要望がありました。

米国ではスペースシャトルが引退し、新しい宇宙船の開発が進められています。その開発や運用でマストラキオ飛行士がNASA内で重要な役割を果たすことを期待されていたのです。

若田飛行士は自分の願望より、日本チーム全体としての技量アップを優先した(写真前列、左から2人目が若田飛行士)
(出典:JAXA)

一方、日本では野口さんや古川さんがすでにフライトエンジニアとして飛行し、私の次に長期滞在する油井さんがフライトエンジニアに任命されており、日本の有人宇宙活動発展に貢献してくれるだろうと判断したのです」

難関とされるフライトエンジニアの資格を取得している若田は、自分も経験したいと思っていたに違いない。だが自らの願望より、マストラキオ飛行士の今後のキャリア、そしてJAXAの宇宙飛行士、つまり日本チーム全体としての技量アップを優先した。これが若田という人のリーダーシップである。

ベテラン、年上の部下とうまくやるには

今回のチーム運営の難しさは、メンバー構成にも見て取れる。メンバーにはベテランのロシア人、ミハイル・チューリン飛行士がいる。彼はすでにISSで2回の長期滞在を行ったベテランで、若田より3歳年上。ISSと往復するソユーズ宇宙船の船長という立場でもある。職場で経験豊富な年配の部下がいると気使うものだが、やりにくいのではないだろうか?

若田より3歳年上のベテラン、ミハイル・チューリン飛行士
(出典:NASA)

「ISSで緊急事態が発生したときは、地上と交信できなくなる場合があり、瞬時の判断が求められます。船長は宇宙飛行士の安全を守ること、ISSをできるだけ維持することを考えながら、的確な判断をしないといけない。この12月にロシアで一緒に、緊急対応訓練を行ったのですが、彼も緊急事態対応訓練時には船長である私の指示を仰ぐことを期待して、行動してくれました」

なるほど、指示系統に問題はないようだ。「ただし」と若田は続けた。

「ロシアモジュールで火災などが起きたときは、彼がスペシャリスト(専門家)です。私は船長としてISS全体の状況判断を行いながら緊急時の対応をリードしますが、ロシア側モジュールを知り尽くし、知識や技量に長けているチューリン飛行士の能力を最大限に出してもらう。クルー全体として、最も効率的な対応を行っていくのです」

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