若田の場合、3回の飛行経験はもちろん、「宇宙飛行のリハーサル」と呼ばれる海底施設でのNASA訓練に船長として参加。メンバーの仕事の割り振り、訓練とミッション計画の立案、本番で分刻みのミッションを率い、「船長の素質あり」と認められた。
宇宙空間だけでなく、地上業務においても、若田は「なくてはならない存在」だ。03年に起きたスペースシャトル・コロンビア号の事故後、飛行再開には検査用ロボットアーム開発が条件だった。この開発にNASA宇宙飛行士室代表として若田が参加。短期間・低予算での開発成功に貢献する。
さらにNASA宇宙飛行士室ISS運用部門で、約30人のチームをまとめる管理職にも就いた。経歴は華々しいが、実は若田が絶大な支持を集めるのはその人間性だ。つねに笑顔で相手の苦労をねぎらう。反対意見にも耳を傾け、共に汗を流す。「若田のためなら一肌脱ぐ」というファンが世界中にいるのだ。
”中間管理職“としての船長業務
若田本人は、船長の役割をどう考えているのだろうか。13年1月、ヒューストンで訓練中の若田飛行士にテレビ会議でインタビューを行った。
「つねに気をつけているのは、チームの能力と士気を高めるため、一人ひとりが何を望み、宇宙で何を実現したいかという目標を把握することです。その気持ちを理解したうえで担当作業を検討し、各国の訓練担当やISSプログラム管理部門と調整しています」
ISS宇宙飛行士は打ち上げ約2年半前に任命される。打ち上げまでの準備、訓練初期段階での船長の重要な仕事の1つは「調整」だ。各国の訓練担当や宇宙飛行士室のマネジメントとの調整に宇宙飛行士チーム代表として参加し、チームの宇宙飛行士の担当業務や訓練計画を立てる。ビジネスマンの課長のようにマネジメント業務も担うのだ。
たとえば、と若田が例を出したのはNASAのリチャード・マストラキオ飛行士。3回のスペースシャトル飛行を経験したベテランだ。何を担当してもらうのか、若田は本人はもちろん、JAXAやNASAの宇宙飛行士室マネジメントとも話し合いを重ねた。
宇宙飛行士の担当任務については各国の“駆け引き”が生じるが、このあたりはNASA宇宙飛行士室管理職やJAXA宇宙飛行士グループ長を経験する中で、調整のノウハウを習得済みだという。
結局、マストラキオ飛行士には往復のソユーズ宇宙船でフライトエンジニアを担当してもらうことになった。フライトエンジニアとは、突然のトラブルで船長が操縦できなくなった場合に、替わって操縦を担うポジション。
船長と同等の技量が求められるため、宇宙船の技術や操縦を習得する絶好の機会であり、宇宙飛行士なら誰もが経験してみたいと思う重要度の高い仕事だ。しかし若田は今回、その席をマストラキオ飛行士に譲った。
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