この発想の下敷きになっているのが、高齢化という社会課題だ。言うまでもなく、日本は世界一の超高齢社会である。しかし、これは日本に限った話ではない。高齢化はすべての先進国に共通する課題であり、途上国もいずれは経済発展の証として高齢化の道をたどると言われている。
「TRIの使命のひとつは新しい市場を発見することです。世界的に高齢化率がどんどん上昇するなかで、どうしたらすべての人に移動の可能性を提供できるのかを考えています。年齢や健康状態、障がいの有無などに関係なく、モビリティを提供するにはどうしたらよいのでしょうか。これは戸外だけに限った話ではありません。
家の中でも人は移動しますし、掃除などでモノを動かす必要もあります。家の外でも家の中でもモビリティの自由を獲得することは、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の向上につながりますから、そこにトヨタが培ってきた技術を投入できるのではないかと考えています」(プラット氏)
TRIのAI開発のスコープは非常に広い。プラット氏はトヨタのことを「デザインや設計、販売など、あらゆる要素を持ち、財務の観点においても優れている」と評し、「今はたまたまクルマを作っているが、もともとは織機メーカーとして始まった企業」とも語っている。そんなトヨタに対して、新しい市場を提案することがTRIの使命であり、プラット氏のミッションでもあるのだ。
また、トヨタは深層学習(ディープラーニング)や機械学習の研究開発で知られたプリファード・ネットワークスにも出資する。プラット氏は「ディープラーニングはAI研究の一分野」だと位置づけ、プリファード社とは違ったアプローチで研究を進めると語った。AIはホットな研究分野だからこそ、あらゆる技術が過渡的と言うこともできる。つまり、現時点ではどの技術が将来もっとも貢献するのかを判断するのは難しいということ。トヨタが何を選択し、未来のモビリティをどう創造するのか、非常に興味深いところだ。
メルセデス・ベンツもまた、AIの研究に熱心である。昨年発表した自動運転のコンセプトカー「F015」は2025年ころをイメージした未来の高級車で、東京モーターショーでも披露されているから目にした方も多いのではないか。このF015の開発チームを率いる社会学者のアレクサンダー・マンカウスキー氏はAIにも造詣が深い。
AIは人間の敵なのか?
AIの話題になると、必ず出てくるのが、AIが人間の敵かどうかの議論だ。AIを搭載したロボットに人間の仕事が奪われるとか、進化したAIが人類を滅ぼそうとするとか、SF映画さながらのリスクを説く人たちがいる。確かに、そんな不安を抱きたくなるくらい、AIの進化は目覚ましい。
今、AIは第3次ブームだと言われている。AIがチェスでプロに勝利したのは1997年のことだが、先ごろ、ついに将棋でもAIに軍配が上がったし、もっとも難しい囲碁でも、ついにプロが負けてしまった。これらボードゲームのプロは数多のゲーム経験を通して膨大な局面を脳内にインプットしている。
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