ギョロリと目をむいた鍾馗(しょうき)が、すり鉢の中の4匹の鬼をすって、鬼味噌を作っている。鍾馗は魔物を追い払う神様で、日本では五月人形としておなじみだ。
すりこぎの先は赤く染まり、鍾馗は「鬼味噌ばかりは、むごたらしいことをせねばならんので、すりにくいものじゃ」と、こぼしている。
すり鉢を押さえて手伝っているのは子供。「父ちゃん、鬼味噌をちっとなめてみたい」とせがんでいる。
この4匹の鬼は、われわれ人間の持つ欲望とも考えられる。すって味噌にしたらどんな味がするのだろうか。
『白隠(はくいん)禅画をよむ』(ウェッジ)の著者で、展覧会を監修する花園大学国際禅学研究所の芳澤勝弘教授によれば、これは「白隠味噌店」の広告、つまり「白隠禅を試してみよ」という宣伝なのだという。
道楽が過ぎると「すたすた坊主」になる?
江戸中期の禅僧、白隠(1685~1768年)は、禅のメッセージを伝えるために、こうした禅画を数多く描いた。禅を説いた相手は大名から庶民までさまざま。それぞれの理解度に応じて内容を変え、相手にどんどん渡していた。クスッと笑えるユーモアのあるものも多い。
絵の中にたびたび登場するのが、七福神として知られる布袋(ほてい)だ。布袋は中国に実在した禅僧。袋を持って街を歩き、誰かれ構わず物をもらっては袋に入れていた。亡くなったとき、実は弥勒菩薩の化身だったとわかる。
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