「手書き」が上手い子は、学力も伸びやすい 文字を書くことで能が活性化する
「字を書く能力は、運動能力の一部(つまり手先が器用かどうか)にすぎないという考えは大間違いだ」と、バーニンガーは言う。「たしかに脳の運動に関係する領域(運動計画や運動制御)を使う必要があるが、極めて重要なのは、視覚と言語が交わる領域、つまり紡錘状回(ぼうすいじょうかい)だ。ここで視覚刺激が文字や書き言葉になる」。
文字を紙面上で再現するには、文字を「心の目」で見なければいけないと、バーニンガーは語る。脳の画像を見ると、文字を書くのに苦労する子とそうでない子では、この領域の活性化に違いがあるという。
大人の機能的な脳の画像を見ると、文字を読んだとき特徴的な脳内ネットワークが活性化されることがわかる。運動処理に関する領域もその一つだ。つまり文字を読む認識プロセスは、文字を形成する運動プロセスとつながっている可能性がある。
インディアナ大学のカリン・ジェームズ教授(心理学・脳科学)は、まだ文字を書けない子供たちの脳をスキャンした。すると、「彼らの脳は文字を認識しなかった。文字を見ても、三角などの図形と同じように反応した」。
ところが文字を教えてもらった子が文字を見ると、大人が文字列を読んだときと同じ脳内ネットワークが活性化した。これには大人が文書を処理するとき使う紡錘状回や、下前頭回と頭頂領域も含まれる。子供たちはまだ書き手としては極めて初歩レベルにもかかわらず、だ。
「小さな子供が書く文字は汚くて、筆跡は定まらないかもしれない。だが文字を書こうとすることが、物事を学ぶ助けになる」と、ジェームズは言う。
書き言葉を「自分のもの」にする大切なプロセス
子供に文字を習わせる場合、活字体(楷書体)よりも筆記体(草書体)のほうがいいんですか?専門家はよくそんな質問をされる。
これについてバーニンガーは、2015年の研究を指摘する。小学校4年生くらいから筆記体を使うようになると、スペリングと作文の能力がアップするというのだ。もしかすると線をつなげる作業が、文字と単語を結びつける能力も高めるのかもしれない。
一方、標準的な子供の場合、キーボードを打つ作業は、同じような脳の活性化につながらないようだ。もちろんほとんどの人は、成長すると文字を書くより、タイプすることが増える。
私は大学で教えるとき、学生の注意力を持続させるために手書きを勧めているが、実際、「パソコンでノートを取る学生は、手書きでノートを取る学生よりも、内容をよく覚えていないし、理解も低い」と、ダインハートは語る。
キーボードを使うこと、とりわけ手元を見ないでキーを打てるようになることは、脳内で繊維細胞が活発に絡み合うことにつながると、バーニンガーは指摘する。手書きと違って、タイプを打つには両手を使うからだ。
「私たちは、子供を『ハイブリッド・ライター』にする教育を推進している」と、バーニンガーは語る。「まず、字を書いて文字を認識する(読む)能力を高める。次に筆記体を学んで、スペリングや作文の能力を高める。そして小学校高学年からブラインドタッチを覚えるのだ」
字を書くことが脳の発達にもたらす効用は、小さい子供からデジタル機器を遠ざけておくべき、新たな有力な理由になるかもしれない。きれいだろうが、乱雑だろうが、字を書くことを学ぶのは、書き言葉を「自分のもの」にする大切なプロセスなのだ。
「自分の手を使って世界を学ぶことは、物事を認識する能力に重要な影響を与える」と、ジェームズは言う。「手書きの作業は、脳の機能や発達に変化をもたらすことができるのだ」。
(執筆:Perri Klass小児科医、翻訳:藤原朝子)
© 2016 New York Times News Service
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