米国産牛肉、「肥育ホルモン」の衝撃的な実態 日本人は「安い牛肉の現実」を知らなすぎる

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2009年に開催された日本癌治療学会学術集会で、半田康・藤田博正らの研究による「牛肉中のエストロゲン濃度とホルモン依存性がん発生増加の関連」という発表があった。

これは、日本において乳がんや前立腺がんといった「ホルモン依存性がん」が増加している状況を、米国産牛肉に残留する肥育ホルモンと関連があるのではないかという観点から、国内で流通する米国産牛肉と国産牛肉の飼育ホ飼育肥育ルモン残留濃度を計測したものである。

その結果、なんと赤身肉部分で米国産牛肉は国産牛肉の600倍、脂肪においては140倍ものホルモン残留が検出されたという。この研究結果はヨーロッパの学術学会でもレターの形で紹介されたそうで、国内外で少なからず反響を呼んだといえる。

このように、畜産・食肉販売の現場や医学界でも、牛肉への肥育ホルモン使用は問題視されてきた経緯があるにも関わらず、日本でそれほどこの問題が持続的に議論されている気配がないのは不思議だ。考えようによってはBSE問題よりもよっぽど悪い当たりくじを引いてしまう確率が高いようにも思えるのだが……。

米国産牛肉を食べる機会は今後増える

最後に、肥育ホルモンについて筆者がどのように考えているか述べたい。

基本的に私は、肥育ホルモンを使用した畜産物を食べたいとは思わない。理由は「気持ち悪いから」である。科学的にリスク評価をして、安全性が確認されているといったところで、それはあくまで「適正な分量を投与しているなら」という前提があっての話である。そして現場では常に間違いのリスクがあり、また故意に間違うというリスクも存在している。

だいたい、BSE問題以降、米国は何度も危険部位をつけたままの肉を日本に輸出しようとし、水際で発見されている。米国は約束したことを守ることができない国だと考えたほうがいいのである。そして現に米国国内で飼育ホルモン問題を気にする人達が一定数いて、オーガニック製品が売れているということを耳にする限り、やはり肥育ホルモンの人体への悪影響は起こりうる問題として考えるべきと思う。

日本ではこれから、米国産牛肉の食事機会が増えていくのではないかという懸念がある。そこに、より貿易の自由度を上げるTPP(環太平洋パートナーシップ)の話がプラスされるので、懸念はますます深まっていくのである。

この肥育ホルモン問題は、単発的に記事が出たり、報道されることはあるけれども、日本国内で一般消費者がよく知るところとはなっていない。ほどよい情報統制がなされているのか、限定的な層のみが着目している状況が続いているようだ。私はもっとこの問題を大きく取り上げて、対米貿易戦略の中でうまく利用していけばいいのに、と思っている。

まだ、すべてを説明しきれていない。「輸入肉の半分以上を占めるオージービーフの場合はどうなのか」「肥育ホルモン問題について日本以外の国ではどんな対応をしているのか」。読者の頭には、こうした疑問が浮かんでいることだろう。それらの疑問には、次回の記事で答えていきたい。

山本 謙治 農畜産物流通コンサルタント&農と食のジャーナリスト

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やまもと けんじ / Kenji Yamamoto

1971年、愛媛県生まれ埼玉県育ち。学生時代にキャンパス内に畑を開墾し野菜を生産。大学院修士課程卒業後、大手シンクタンクに就職し、畜産関連の調査・コンサルティングに従事。その後、花卉・青果物流通業を経て2004年に(株)グッドテーブルズ設立。農業・畜産分野での商品開発やマーケティングに従事する。その傍ら日本全国の佳い食を取材し、地域の郷土料理や特産物を一般に伝える活動をしている。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」のほか、『激安食品の落とし穴』(KADOKAWA)、『日本の「食」は安すぎる』(講談社プラスα新書)など著書多数

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