大成功したければ、MBAへ行ってはいけない 「財多ければ必ずその志を失ふ」の教え

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「財多ければ必ずその志を失ふ」の教え

「高い学費を返済するため」という理由もありますが、大きな変革を起こす力のある人たちが、体制側の「小さな成功」の型にはめられていく様を、現代インドという特殊な世界で目の当たりにしたような気がしました。資本を持っている側にしてみれば、敵に回すとやっかいな相手が、それくらいで自分の飼い犬になってくれるなら安いものです。資本主義のカラクリといってもいいでしょう。

もちろん「小さな成功」と言っても、年収が数千万円というような、日本人の平均から見てもべらぼうに高い所得を得るインド人もいます。その後、さらに成功を重ねていけば、世界に名だたるグローバル企業のCEOとなるなどして巨万の富を築くということも不可能ではありません。しかし私はそれでもあえて、それを「小さな成功」と呼びたいと思います。どんなに世間的に成功したとしても、最初の自分自身の大きな志の在り処が分からなくなってしまったら、それは本当に成功と呼べるのでしょうか。

「MBAは成功へのパスポート」などとは言えませんが、たしかに「小さな成功」への優待券くらいにはなるかもしれません。でも、過度の期待は禁物です。ビジネススクールに行って、一流企業のCEOになれたとしても、ガンジーにはなれません。

それでもなお、大きな願いを胸にMBAに挑戦される方は、道元禅師の「財多ければ必ずその志を失ふ」という言葉を座右の銘として、取り組まれてはいかがでしょう。カネで動かない人間こそが、志を貫徹し、新たな道を成就するのです。

松本 紹圭 光明寺 僧侶

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まつもと しょうけい / syoukei matsumoto

1979年北海道生まれ。本名、圭介。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。蓮花寺佛教研究所研究員。東京大学文学部哲学科卒業。超宗派仏教徒のウェブサイト『彼岸寺』(higan.net)を設立し、お寺の音楽会『誰そ彼』や、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。

ブルータス「真似のできない仕事術」、Tokyo Source「東京発、未来を面白くするクリエイター、31人」に取り上げられるなど、仏教界のトップランナーとして注目される。2010年、南インドのIndian School of BusinessでMBA取得。現在は東京光明寺(komyo.net)に活動の拠点を置く。2012年、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。全国各地で各宗派から意識の高い若手僧侶数十名が「お寺から日本を元気にする」志のもとに集結し、学びを深めている。

著書に『おぼうさん、はじめました。』(ダイヤモンド社)『"こころの静寂"を手に入れる37の方法』(すばる舎)『お坊さん革命』(講談社プラスアルファ新書)『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』(ディスカヴァー21社)『脱「臆病」入門』(すばる舎)など。
 

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