私はといえば、卒業後はお寺に帰るだけですので、この就職活動の一種異様な盛り上がりを傍目で眺めていました。そしてある日、あることに気がつきました。
MBAは、資本主義社会のルールを教えてくれます。企業であろうが、病院であろうが、お寺であろうが、この社会の中に存在する限り、法律やルールから逃れてやってはいけません。たとえ病院やお寺であっても、経済的成功が目的ではないにせよ資本主義の中で維持発展していかなければならないので、そのための方法論を徹底的に学ぶわけです。その結果、そこでしっかり学んだ人が活躍する組織は、「現在の社会の枠組みの中で」元気になります。
「やさしい顔した資本主義」の怖さ
しかし、どうでしょう。たとえば、もともと「世界から貧困を無くしたい」という志を持って、ビジネススクールに来た人はどうか。戦略やマーケティングやファイナンスを学び、NPOを立ち上げて、世界から貧困を無くすために頑張るかもしれません。ですが、もしもその貧困が資本主義社会の枠組みのいびつさそのものに端を発しているとしたら?
そもそもNPOというあり方自体が、既存の経済社会の枠組みにおいて存在を許された組織形態ですから、既存の枠組みそのものを揺さぶるような力を持つことは難しい。図らずも「優しい顔をした資本主義」のイメージ作りに貢献してしまう恐れもあります。極端な話、世の中を変えたいと思っていた人が、気がつけば、世の中の体制を守る人になってしまうのです。
また、MBAには仕事能力の高い人が集まります。志があろうとなかろうと、仕事の面でハイスペックな人材が多いことは確かです。そういう人たちが「この世界での成功のルール」を叩き込まれ、目の前に「この世界で成功とされているキャリアパス」を用意されると、たとえもともとお金には代えられない大きな志があったとしても、心が揺れ動くのが人間というものでしょう。
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