ドラギ総裁のパクス・ロマーナと欧州の展望 景気・経済観測(欧州)

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例えば、景気の予想以上の悪化や地方自治州の財政再建が進まないことで、政府の財政状況が大幅に悪化する場合、追加格下げが行われる可能性も否定できない。

ECBに対する過大な幻想が揺らぎ始めるのは、スペイン政府が国債購入での支援を要請し、ECBがスペイン国債を購入し始めた時ではないだろうか。無制限購入の言葉とは裏腹に、ECBの実際の買い入れ額は期待外れに終わる可能性がある。

問われる欧州の結束とユーロの未来

アウグストゥスに始まるローマ帝国の平和と繁栄は、その後の五賢帝時代まで200年余りも続いた。長期繁栄の礎となったのはローマ街道に代表される社会インフラだったとも言われる。ドラギ総裁のパクス・ロマーナで時間稼ぎに成功した今、欧州各国が今後も必要な改革と統合強化に向けた取り組みを継続できれば、ユーロの未来は明るい。

だが、市場圧力が弱まったことで改革の手綱を緩めれば、危機は再び訪れよう。繁栄を誇ったパクス・ロマーナの終焉は、皇帝の後継者争いに伴う内紛であった。1800年後の欧州諸国が同じ道を辿るのか、問われているのは欧州の結束だ。

 

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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