このままでは「焼け石に水」
現在の欧州では、長期的なユーロ安により、ドイツやオランダなどの経常黒字国とイタリアやスペイン、ギリシャなどの経常赤字国の経済的な格差が拡大しつつあります。競争力が高い国の人々は生活水準が下がっていませんが、低い国の人々は生活が一段と困窮しています。
しかし、ユーロ圏で経済が好調なドイツであっても、輸出の約3分の2弱をEU域内向けが占めています。債務危機国であるイタリア、スペインはEU域内の3番目、4番目の経済大国です。
ポルトガルやギリシャも含めて、これらの債務超過国が周期的な財政危機に陥れば、遅かれ早かれ、ドイツの経済にも大きなダメージをもたらすことは避けられません。EUおよびユーロ圏は一蓮托生なのです。
2012年3月にEUの救済策によって、ギリシャは民間債務の約75%を削減できたとはいえ、国債利回りが20%を超える水準では、借金返済ができるわけがありません。
スペインが今まさに陥っている状況(10年物の国債利回りが約5%台半ば)を考えてみましょう。仮に利回りが6%とすると、10年間で元利金支払いが1.8倍近くになるのですから、いくらギリシャやスペインが緊縮財政を行ったとしても、国債利回りがこのままでは、焼け石に水といわざるを得ません。
欧州の今後については、その命運をドイツが握っているのは間違いありません。債務問題に関しては、ドイツだけが事実上の「拒否権」を持っていて、ドイツが承知しなければ何ごとも実効性のある決定はできないからです。
ドイツは、各国が自己の責任を負う財政規律の強化が優先されるべきであるとして、ユーロ共同債など自らの負担が拡大する案には反対の立場を取り続けています。
メルケル首相を支える連立与党内でも、ドイツの負担増となる支援拡大への抵抗は大きく、また世論も3分の2以上がメルケル首相の対応を支持すると答えています。この結果を受けて、メルケル首相自身もユーロ共同債の導入に関して、「私が生きているかぎりない」と発言しています。
そうは言っても、これから数年以内にスペインやイタリアが深刻な財政危機に追い込まれれば、ドイツの財政や経済にも大きな衝撃をもたらします。それを避けるためには、将来的にドイツは、嫌でも「ユーロ共同債」の導入に合意せざるを得ないと思われます。
現実的な見方として、ユーロ共同債が実現するとすれば、それは13年のドイツの議会選挙において、現在の連立与党が敗北し、メルケルが首相の座から転落してからになるでしょう。逆にいえば、それまでの間は、国債市場や株式市場の混乱は続くと見るべきです。
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