「叱る文化」の職場が伸びないこれだけの理由 ANAの上司は優先事項をはっきりさせる
人間は本質的にエラーを起こすようにできています。1959年からおよそ 30 年間の世界中の商用航空機で起きたすべての全損事故の主要因を分析したデータがあります。それによると、戦争やテロなどを除くと、全損事故のうち航空機材の不具合に原因があったものは2割。残りの8割は、人間のエラーによるものでした。エラー対策こそが事故を減らす早道だったのです。
同じようなエラーはを繰り返さないために
人間のエラーによる事故を防ぐために、ANAがとっている原則があります。それは、「人間が起こすエラーはゼロにすることはできない」という前提に立つことです。ですので、人がエラーを起こすことを認めながらも、同じようなエラーは繰り返されないようにしなければなりません。
40年間整備部門に在籍し、ANAビジネスソリューションヒューマンエラー対策講師をつとめる宮崎志郎はこう説明します。
「そのときの失敗は、偶然その社員がもたらしただけのものともいえます。しかしその失敗を周りと共有しなければ、ほかの社員も同じような失敗を起こすかもしれない。『だから、正確な対策を立てるために、きちんと教えてくれないだろうか』と協力を仰ぎ、応じてくれたことに対して感謝の姿勢で迎えます」
世間一般的には、失敗をした人から聞き取りをすることに、処罰的な意味合いが含まれていると思われがちです。上司(会社)から呼ばれ、怒られたり説教されたりするというイメージがあります。
もし失敗した人に対して、ヒアリング担当者が「こうなったのはすべておまえの責任だ」という態度で接して、その人しか知りえない事故に至るまでの貴重な事実を聞き出せなければ、適切な事故の再発防止ができません。さらにヒアリング担当者のその姿勢に対して失敗した当事者が不信感を抱けば、会社としても大切な人財を失うことになりかねません。「安全は経営の基盤」とうたっている会社の姿勢が形だけのものとなってしまいます。
ヒアリング担当者が失敗をした当事者に協力を仰ぎ、感謝の姿勢で接するのは、お互いの間に信頼関係を築いて話をしやすくするためだけでなく、当事者とともに会社がいっしょになって安全を守っていくという信頼関係を構築するために他なりません。