「叱る文化」の職場が伸びないこれだけの理由 ANAの上司は優先事項をはっきりさせる
事故につながるような失敗は、ないに越したことはない。でも、人間は失敗をする。であれば、その失敗を事故防止に資する価値あるものとして評価する。こうした考えが、ANAの安全を支えていく根幹にはあります。
「叱る文化」だと安全は守れない
失敗した当事者を単に「説教する」のではなく、失敗の再発防止につなげる――。こうした上司の姿勢が徹底していると、大事故につながりかねない兆候を、部下は報告しやすくなります。
あるCA(キャビンアテンダント)が、客室の安全を確認してシートに着席すると、ドアの下のほうから普段は聞こえないような「異音」が聞こえてくる。でも、飛行機は滑走路に入る直前……。いま、機長に「異音がする」と報告をしたら飛行機は駐機場に引き返すかもしれない。そうしたら、運航に遅れが発生し、たくさんのお客様にご迷惑をかけてしまう――。このような状況になったとき、あなたならどうするでしょうか?
離陸前の最も緊張感が高まる時間帯に、わざわざ機長に報告するか、あるいはやめておくべきか。その判断には、強いプレッシャーがかかります。ANAの社員たちも、このような状況に直面することがあります。ANAでは、ここでとるべき「正しい」行動を明確に決めています。
少しでも運航の安全に影響を与えるようなことは、機長に報告しなければなりません。ひと口に異音といってもその原因はさまざまです。それが安全に影響をあたえるかどうか、判断に迷ったときは報告をすべきとしています。なぜなら、ANAでは、「安全」が経営の基盤であり社会への責務だとしているからです。
・締め切りか、クオリティか
・コストか、お客様満足か
・目先の売り上げか、将来への投資か
日々仕事をしていると、さまざまな「ジレンマ」が私たちの前に立ちはだかります。2つを両立できれば言うことはありませんが、それができない場合、頭では「クオリティが大切」「お客様満足が大切」とわかっていても、いざ行動しようというときになって「効率」や「自分の利益」を優先してしまい、大きな問題を引き起こしてしまうこともあり得るのです。
「ANAは航空会社なんだから、安全第一は当たり前じゃないか」と、思うかもしれません。でも社員一人ひとりが、どのような状況でも「安全第一」で行動できるかどうかに、その会社の本当の底力が表れるといっても過言ではありません。