「叱る文化」の職場が伸びないこれだけの理由

ANAの上司は優先事項をはっきりさせる

結局、この「異音」は飛行機の運航にはまったく支障のないものだったという場合もあります。それでも、報告を受けた機長は「よく報告をしてくれました。ありがとう」と、ねぎらいの言葉をかけます。そのときはたまたま問題がなかっただけで、別の機会では異音が本当に事故につながる兆候だった可能性もあります。

もし機長が「離陸直前に、余計なことをされた」といった態度で臨んだり、叱りつけたりしたら、そのCAはきっと次に同様の異常を感じても押し黙ってしまうでしょう。

「行うは難し」であることをANAの社員が実践できるのは、もうひとつ理由があります。経営トップでもある安全統括管理者が社員に対して「安全に疑義がある場合や自信がない状況で、飛行機を運航させることは、絶対に行ってはなりません。『安全を優先する』行動を行い、その結果『遅発』や『引き返し』が生じても会社はそれを容認し、関係者の下した判断を尊重します」ということを宣言し、これを何度も伝えているのです。

勇気ある報告には「よく言ってくれた」

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整備部門でもこのようなことがありました。前の日にエンジンの整備をした飛行機は、すでに多くのお客様を乗せて予定どおりの出発時刻に駐機場を出ました。

しかし、そのエンジンの整備を担当した整備士が「確かに、エンジンのあのボルトはちゃんと締めたはずだが、はっきりとは覚えていないので点検したい」と申し出たのです。飛行機はすでに駐機場を出て滑走路に向かっていましたが、直ちに引き返し、点検を受けることになりました。

結果、ボルトはちゃんと締まっていたことがわかりました。この点検のために飛行機の出発は遅れ、お客様に大変な迷惑をかけてしまいました。それでも当時の整備部門のトップはその整備士の行動に対し、「よく言ってくれた」と感謝し、褒めたのです。

お客様に約束した定時運航を果たすことはできませんでしたが、お客様が「当たり前」と思う「安全」に対する信頼を損なうことは防ぐことができたと考えたからです。

単に「安全第一」というスローガンを掲げているだけでは、社員は「安全」と「定時運航」を天秤にかけて迷ってしまいます。本来、「安全」はなにかほかのことと優先度や重大性を比べるものではないのです。絶対に守らなければならないことをトップが明確に宣言し、自ら実行して、社員の行動を後押しすることが、最優先事項を守らせるためには不可欠なのです。

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