「プロレスブーム」が再来した本当の理由 誰でも受け入れる土壌は企業社会と重なる

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常見:IWGPヘビー級王座の対オカダ戦はすごかったですね。場内で内藤コールが沸き起こりました。

三田:内藤選手は、レフリーは蹴とばすし、乱入はするし、禁じ手を全部やった。普通だったら、「タイトルマッチにそんなことをするのは許せない」と、客席からブーイングが飛んできてもおかしくない。でも、少なくとも会場にいたお客さんは、彼を認めました。彼は、あれだけ欲しかったベルトも人気もあの瞬間に手にしたのです。

常見:あれはすごかった! 楠木新さんの『左遷論』という本があります。周りは左遷と言いますが、流れで見たらわからないんですよね。

三田:でも、左遷されている瞬間はつらい。内藤選手だって、ずっとベルトが取れず、お客さんからも支持されていなかった時代はつらかったと思うんです。でも、それが雌伏の時期になったと。

アスリートとしてのピークに重なるわけじゃない

常見:プロレスも、人生も結局全盛期がいつなのか、あとになってみないとわからないですよね。

「くだらないな」と思ったことが後に活きてくることがあります

三田:武藤敬司選手もそうですよね、彼は、もともと身体能力もビジュアルも良く、大スターでした。でも、武藤さんが本当にみんなの共感を得て輝いていたのは、膝を故障した後なんですよね。膝を悪くして、スキンヘッドで米国から帰ってきた。そこからが“武藤敬司”の本領発揮だった。

必ずしも、アスリートとしてのピークに重なるわけじゃない。そこがプロレスのすごいところですよね。もちろん、棚橋選手みたいに、ずっとスターの人もいます。ですが、本間朋晃選手のように、なかなかチャンピオンになれず苦労し続けた人が後楽園でお客さんの満場の後押しでメインイベンターになったりする。

常見:自分がいつ主役になるかわからない。ぼくも、会社員時代、出向や寮生活を経験して、「くだらないな」と思いつつ、後でその経験が生きてくることがあります。

気をつけないと、精神論になりがちですが、いつか報われるぜ!ということは強調したいです。「俺は上場したぞ!」「年収○○億」みたいな本よりも、サラリーマンにずっと役立つことが書いてある本だと思いました。ありがとうございました!

このサイトを読んでいる方の中には、以前、猪木や馬場、長州に藤波、鶴田に天龍、タイガーマスク、橋本、武藤、蝶野、三沢、川田、小橋、田上などに熱くなった人もいることだろう。
あの頃の熱い想いはきっと色あせない。中には、プロレスはあの頃ほど盛り上がっていないと思っている人もいるかもしれない。ただ、今のプロレスはまたカタチをかえ、新しいヒーローや、長年続けてきた人によって盛り上がっている。レスラーたちが時代を超えて続けていることを私はリスペクトしている。
ふらりと後楽園ホールに行けばそこには会社員と同様に、理不尽に耐えつつ、輝いている人たちがいる。プロレスとは、相手の技を受けて、受けて、立ち上がるものである。会社と一緒だ。今のプロレスを見て欲しい。

(構成:山本 菜々子、撮影:梅谷 秀司)

常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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