自動車業界はどう動く? 原料炭が3倍に暴騰 鉄鋼値上げの行方
「お客様に粘り強く、粘り強く、粘り強く話をして、理解していただいたうえで製品価格に転嫁する」
4月9日、新日本製鉄と韓国最大手ポスコとの友好関係40周年記念コンサート後の会見で、新日鉄の三村明夫会長は鋼材値上げへの意欲を強調した。
この日はくしくも、資源メジャーの一角であるBHPビリトンが原料炭価格の値上げを正式に打ち出した日。新日鉄とポスコの友好関係を強調するはずの会見は一転、鋼材値上げアピールの場へと変わった。
三村会長が「粘り強く」と3度も繰り返したことは、鉄鋼業界が置かれている現状の深刻さの裏返しでもある。それほどまでに、今年度の鉄鋼原料の騰勢はすさまじい。
主原料の一つである原料炭の価格は、2007年度の1トン当たり98ドルから08年度は202ドル増の300ドルで決着した。もう一方の鉄鉱石も07年度の同48ドルから31ドル増の79ドルに決まった。値上げ幅は、原料炭、鉄鉱石ともに過去最大。背景にあるのは、中国を中心とした世界的な鉄鋼増産と、寡占化で発言力を増す資源メジャーの存在だ。
鉄鋼側にも、鉱山側が強気の姿勢で交渉に臨んでくるという予感はあった。通常なら原料交渉が決着してからユーザー側との鋼材価格交渉を本格化させるが、今回は「見切り発車せざるをえない状況」(新日鉄幹部)と判断。08年初から、1トン当たり2万円を前提に値上げ交渉を前倒しで開始し、現状認識のすり合わせを急いできた。
こうした新日鉄の前倒し戦術によって、2月時点では「国内市場は値上げできる状況にない」(トヨタ自動車の渡辺捷昭社長)と難色を示していた自動車業界も、4月初めには「2万円で妥結というムードが漂っていた」(商社筋)という。
主要鉱山が軒並み冠水 予想超す大幅値上げに
ところが、予期せぬ天災によって状況は一段と悪化した。国内鉄鋼各社の原料炭の主要調達先である東豪州を、年明けから2度も大雨が襲ったのだ。主要鉱山は軒並み冠水し、操業停止に。原料炭シェアで世界首位のBMA(BHPと三菱商事の合弁)はフォースマジュール(不可抗力)を宣言し、供給を一時停止した。
だが、鋼材生産はストップできない。原料炭の在庫が適正水準を割り込み始めた新日鉄など高炉3社は、長期契約の3倍近い価格で米国から緊急調達を実施。前出の新日鉄幹部は「うちもフォースマジュール宣言をしたいよ」と嘆き節を漏らした。