自動車業界はどう動く? 原料炭が3倍に暴騰 鉄鋼値上げの行方

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主要鉱山との交渉が長期化する中、大幅値上げに最初に応じたのは鉄鋼世界首位アルセロール・ミタルだった。自社で炭鉱も保有するミタルは、東欧の同社鉱山で相次いで事故が発生。増産に伴い原料炭の消費量は増えており、外部調達の必要量も増していた。こうした情勢下、日本側も「当初は想定していなかった」(三村会長)はずの1トン300ドルという価格を早期に受け入れた。

鉄鋼原料の価格交渉では、大手同士が最初に決めた価格に他社も追随するのが慣例だ。新日鉄も必要量確保のためには、この条件をのまざるをえなかったといえる。

想定を上回る原料炭3倍値上げで、当初、想定した2万円の鋼材値上げでは不十分となった。このため鉄鋼各社は、もう一段の鋼材値上げの方針を固めた。新日鉄は即日、H形鋼の8000円追加値上げを発表。大口ユーザーとの長期契約でも、値上げ幅の増額を要求している。

鉄鋼の再値上げ不透明 資源の寡占化も憂慮

最大ユーザーである自動車業界は「われわれがどう原価低減を進めていくか、一層拍車をかけてやらなければならない」(トヨタの渡辺社長)と追加値上げへの覚悟ものぞかせる。しかし、目下のところは「事務方でハードな交渉をしている最中」。値上げの金額・時期などを含め、両者の激しいせめぎ合いが予想され、先行きはなお不透
明だ。

原料高騰に伴う鉄鋼業界全体の負担は、07年度から3兆円超増えると試算できる。国内シェア3割の新日鉄に置き換えれば、負担増は1兆円。製品価格への転嫁が一切進まなかったと仮定すると、一気に4000億円近い赤字に転落する。

さらに、一層の寡占化を進める資源メジャーへの対応も、憂慮すべき問題だ。昨年、BHPが同じく資源メジャーのリオ・ティントへの買収提案を表明した。両社が統合すれば、世界の鉄鉱石(海外貿易)市場で4割のシェアを持ち、今まで以上の価格支配力を手にすることになる。

こうした動きに対し、日本鉄鋼連盟は「寡占化の中で公正な価格形成ができないおそれがある。公正取引委員会も重大な関心を寄せている」(馬田一会長)と言及。公取に「適切な措置」を要求しているが、効果、実現性ともに未知数だ。

今後も原料高騰が続けば、鉄鋼各社の業績悪化、一層の株価低迷が危惧される。そうなると、一時は遠のいていたミタルによる日本企業買収の可能性も再浮上するかもしれない。原料問題への対応は抜き差しならない段階に達している。
(猪澤顕明 =週刊東洋経済)

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