つらい精神的な労働を乗り切る方法 感情労働の時代
感情労働という言葉をご存じだろうか。労働はこれまで、「肉体労働」と「頭脳労働」の二つに大きく分けられてきた。しかし最近は、いずれにも当てはまらない第3の労働、「感情労働」があると考えられるようになってきた。職務として、表情や声や態度で、適正な感情を演出することが求められる仕事のことである。
この概念は、1970年代半ばに米国で生まれ、A・R・ホックシールドという社会学者の著書『管理される心 感情が商品になるとき』によって、広く知られるようになった。83年の著作で、日本語訳は2000年に刊行されている。
心からの笑顔という感情労働が求められる
ホックシールドは、米国の航空会社の客室乗務員を対象にフィールドワークを行い、労働と感情とのつながりを明らかにした。客室乗務員は、乗客が安心できるよう、つくり笑顔でなく心からの笑顔に見せるためのスマイルトレーニングを受ける。また、危険な状況に陥っても、乗客を安心して誘導できるよう、自らの感情を管理する訓練が行われる。こうしたことが、「感情労働」であるとホックシールドは考えたのである。
笑顔をはじめとする適切な表情、そしてその表情に合わせた感情が、職務として求められる職種は、客室乗務員だけではない。特に、教師や医師、看護師といった、資格や免許を持ち、教育や医療など公的サービスを担う人たちに対しては、人格者であるべきという人々の期待が大きい。その期待に応えるべく、彼らは適切な表情をし、適切な感情労働をする。その負担が大きいためか、こうした職種の人たちが精神的に追い詰められるケースが社会問題化している。