突破力あるリーダーとは(上) 新世代リーダー 石川康晴 クロスカンパニー社長
もう一つ、弊社の注目していただきたい事例を紹介したいと思います。それはCM戦略です。
これも実は背景にいろいろなことがありました。実は、2009年に初めてearth music&ecologyが既存店前年比を割り始めました。その背景にあったものは、同質化です。我々が一人勝ちしているところに後発ブランドが出てきて、プロダクトのコピーが始まり、マーケットを見るとほとんど我々のブランドと近しいプロダクトになってきていました。
一方で現場は非常に頑張っている。ストイックに、本当に胃潰瘍になるぐらいの勢いで頑張っていると。経営者としては、何か差別化戦略を打たなければいけないと非常に悩んだ挙句の果てに、CMというものをやってみたらどうかと社内で提案してみました。
「いいんじゃないか」という意見もありました。そもそもアパレルのブランドはユニクロや無印を除くとブランド認知度は低いので、認知度が上がれば売り上げも上がるのではないか、その指標があるとアドバイスをしてくれた役員がいました。また、競合他社とプロダクトで差別化できないのであれば、プロモーションで強く差別化に出るべきじゃないかという意見もありました。
一方で、よくある議論ですが、ネガティブな議論として本当にROIとして大丈夫なのか。CMよりSNSの時代なのではないか、順調に出ていた利益が赤字に転じるのではないかという話もありました。
「見たことのない、宮崎あおいさんが見たい」
当時まだ160億円しかなかったブランドにアパレルで12億円という8%近い広告宣伝費の投資を行いました。アパレルでは広告宣伝費は通常2%と言われていますので、非常に大きな投資です。
他社事例も分析したのですが、国鉄からJRになるときのCMを分析したときに、大量のCM投下によって社員が人から見られているという意識が高まり、みどりの窓口のサービスが著しく上がったという話を聞きました。最終的に「間違いなく社員のモチベーションが上がるだろう」と、投資を決断しました。
CM制作の際、私がクリエイターに出したリクエストは、「見たことがない宮﨑あおいさんを見たい」ということでした。「かつて見たことがない宮﨑あおいさんのCMが見たい。それじゃないと我々の投下量はほかの企業に負けてしまう」と、リクエストをしました。
宮﨑あおいさんがCMで歌うことはNGとされていたので、そこに目を付けて事務所と交渉しました。最初は何度も断られましたが、たまたま音楽の映画に出演されるタイミングと重なり、ややタイアップ的な見え方になるということで判断していただきました。その後、約2年間宮﨑あおいさんに歌っていただきました。今年からは歌から語りという形に切り替えて、また新しいクリエイティブを打ち出しています。
セレクトショップからSPAに変化したこと、そして起業に向けて本当に不安なこともたくさんあったのですが、「裸で生まれてきたので、裸になってもいいじゃないか」という胆力、会社つくるぞという一歩によって、今のクロスカンパニーがあるのではないかと思います。「挑戦と変化」が、突破力のあるリーダーの着眼点として押さえておきたいと思っております。