多くの著作があり「ビジネス・経済書200冊ランキング」でもおなじみの枡野俊明氏。枡野氏は禅僧であり、曹洞宗徳雄山建功寺第18世住職である。今回、禅はなぜビジネスマンを魅了するのか、その理由を伺った。
世間を騒がす企業の不祥事が後を絶たない一方で、業績を伸ばし続けて世の耳目を集める会社もある。なぜこのようなことが起こるのか。前者と後者の企業では、いったいどんな違いがあるのだろう。
「常に本質を見つめるのが禅の考え方です。虚偽の報告や水増し会計、手抜き工事などが次々と発覚するのは残念なこと。企業とは、世の人々のために役に立つものを提供し、その見返りで収益を上げ、成長していくのが本来の姿。数字ばかりを追うと本質を見失い、間違った方向に行くのです。企業の経営は禅の考え方と同じと言えます。昨年は銀行やシンクタンクから講演の依頼がありました。経営と禅のお話を望まれているようです」
スティーブ・ジョブズと禅
経営者と禅といえば、スティーブ・ジョブズは禅の信仰が深かったことで広く知られている。「もし今日が人生の最後の日だとしたら、今日しようとしていることを本当にするだろうか?」と、毎日鏡の中の自分に問うていたのは、まさに禅の考え方だ。
「スティーブ・ジョブズがヒッピーだった頃、サンフランシスコの禅センターで、曹洞宗の乙川弘文(おとがわ こうぶん)僧侶に出会います。彼はボロボロの格好をして、迷って迷って悩んでいた。ジョブズは乙川老子に出会い禅の考え方を学ぶと、気持ちがクリアになり、起業を決意したといいます。
禅の考え方は足し算ではなく、引き算。多くの企業は"便利なものを付加する"ことで価値を生み出しているように思いますが、アップルは簡素の美。誰でも使えるシンプルさで、絶対に必要なものだけを残していくという考え方で、これこそまさに禅の考え方でした。京セラの稲盛さんも禅僧になられて、それを経営に生かされましたね」
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