山の世界から見る新しい日本

新世代リーダー 山田 淳 登山ガイド

この2つは一見、相反するミッションのように思える。登山人口が増えれば、事故件数はどうしても増えてしまう。2倍の人が山に行けば、確率論的には2倍、事故が起きてもある意味、当然だ。しかし、「山の事故を減らさなければ、登山人口は増えない」と山田さんは考える。過去に日本で登山ブームは3回あったが、すべて事故によってブームが去っているからだ。

1970年代の合同ハイキング、通称「合ハイ」ブーム。80年代後半のヒット映画『わたしをスキーに連れてって』によるスキーブーム。そして、90年代後半からNHKで放送された「中高年の登山学」を機に火がついた登山ブーム。ブームによって初心者や体力のない人が山に登ると、やはり事故が起こりやすくなる。それをメディアが報道し、「山は怖い」という印象を世間に与えてしまう。

最近、「山ガール」や「森ガール」「木こりガール」などと称する若い女性が山登りを楽しむ4回目のブームが到来している。このブームを一過性で終わらせたくない。そのためにも、「登山人口の増加」と「安全登山の推進」を両立させようと山田さんは奮闘する。

登山ブームを維持するには何が必要か?

102月、フィールド&マウンテンを創業した山田さんは、2つのミッションに取り組むうえでの障害を取り除き、問題を解決する方法として3つのポイントを設定した。

1つ目は「道具」。初心者が山登りに必要な基本装備を買いに行っても、店側に高い商品を売りつけられたり、必要以上のものを買わされたりするケースが少なくない。一式そろえようとすると、10万円近くもかかってしまう。そのため気軽に山登りができない、あるいは軽装で出掛けてしまう。そこで、山道具を安く借りられる「やまどうぐレンタル屋」を始めた。このサービスを利用すれば、登山靴、雨具、防寒着、リュックサック、杖、ヘッドランプなど一式借りても、14000円ぐらいに抑えられる。

注文はネットと電話、実店舗で受けているが、電話での注文が半分以上だ。電話経由のお客さんの多くは単に注文するだけでなく、「ユニクロのフリースを持っているんですけど、それは使えますか?」といった相談をしてくる。

「お客さんが知りたいのは、安全に登るために最低限、必要な道具は何か?ということ。だから、『フリースを持っているなら、ウチで防寒具を借りる必要はありませんよ』と答えている。レンタルをしたいというより、お客さんの不安を取り除いてあげたいんです」

こうした姿勢が奏功し、レンタル事業は12年現在、年間約3万人が利用。初心者のほとんどがまず富士山に登るのだが、今年、富士登山をした人は全国で約27万人。つまり、約1割の人がこのレンタルを利用している計算になる。

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