山の世界から見る新しい日本 新世代リーダー 山田 淳 登山ガイド

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2つ目は「情報」。これまで初心者が山の知識を得る情報源が少なかった。たとえば、10月に入ってから富士山に登りに行く人がいるが、もう冠雪してしまっている。そういう情報をお客さんに届ける方法がない、もしくは届かせる工夫が足りない。そこで、山の情報を載せた「山歩みち」というフリーペーパーを年3回発行。山道具をレンタルしたお客さん全員に配布し、登山用品店にも置いている。2000部からスタートし、現在8号目で10万部を突破した。

最初のうちは記事も写真も印刷の発注も、すべて一人で行っていたという

3つ目は「きっかけ」。山登りに興味を持っても、きっかけがないとなかなか出掛けない。そこで毎月、登山のイベントを開催し、「山から日本を見てみよう」というサイトで告知している。

「富士山に行った人たちにアンケートを取ると、約8割の人が『今後も登山を続けたい』と答えている。私は事故を減らすための情報を届けると同時に、この人たちに『富士山だけでなく、こんなすばらしい山もありますよ』と伝えていきたいんです」

ところが山の業界にいる人たちは、富士登山をするような初心者は、一生に一回しか登らないとなぜか思い込んでいる。だから、登山用品店ではフル装備を売りつけようとする。あるいは、商売っ気がまったくなく、山の情報を発信しない。この部分を解決すれば、登山人口は確実に増える。

日本の山が秘める「とてつもない」ポテンシャルとは?

日本の登山人口は現在、1200万人。これを多いと感じるだろうか? 少ないと感じるだろうか? 山田さんは少ないと感じている。韓国の場合は、人口が日本の約半分にもかかわらず、登山人口は日本と同じ1200万人。しかも、日本の「登山人口」の定義は「過去1年間に山に行った人」だが、韓国の定義は「過去1カ月間に山に行った人」である。

「日本人はもっと山に登ってほしい。もっともっと自然を満喫してほしい」

山田さんがこう力説するのは、山にはとてつもないポテンシャルが秘められていると考えているからでもある。それはマッキンゼー時代に芽生えた発想だ。

次ページ山と観光業はどうつきえばよいか。
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