雑談をしない人が、結局結果を残せないワケ ANA社員が大事にする「ハンガートーク」
勤続20年以上のあるベテラン機長は、「ハンガートーク」の重要性をこう話します。
「自分がまだ経験していないことを、相手は積極的に話してくれる。自分も、なにか経験をしたら積極的に話す。一人の人が自分の仕事の中で経験できることには限界があるので、他の人の経験を共有できるのは貴重なことです」
「ハンガートーク」は、パイロットだけの習慣ではありません。「人と人が会えば、情報共有や意見交換する」という風土が、ANA全体にあります。CA(キャビンアテンダント)同士が更衣室であいさつをすれば、「にわかハンガートーク」が始まります。
CA(X) 「あ、おはよう。今日はどこへフライトするの?」
CA(Y) 「沖縄なんだけど、夏休みに入ってから初めてなの」
CA(X) 「この間フライトしたときは、お子様連れのご家族がすごく多かったよ」
CA(Y) 「そうだよね。フライト時間が長いから、お子様におもちゃを差し上げるのはサービス後のほうがいいかなぁ」
CA(X) 「うん、でもアイスクリームの機内販売も人気があるから手分けをしてサービスしたほうがいいと思うよ」
CA(Y) 「そのほうがいいね。あと、毛布はいつもより多く搭載されているんだよね?」
CA(X) 「そうなんだけど薄着の人が多いから、上着をお持ちの方は着ていただくようにお願いしたよ」
自然に「おしゃべり」が生まれないような雰囲気の企業では、かつての格納庫のように、どこか人の溜まりやすい場所に「場」をつくるのが有効です。例えば、ベンチを置いたりするのも手かもしれません。
ANAの客室センターのオフィスでは、ある時期部下が上司に話しかけやすい雰囲気をつくるため、席順を変えていました。通常であれば上座(部屋の奥)に座っている上司の席を、誰もが通る通路の近くに移動。さらに、上司の席の横にテーブルや椅子、キャンディーを置いて「ちょっとひと休み」しながらゆっくりと話してもらえるようにしました。井戸端会議が始まるように、先に「井戸」をつくる作戦です。
「ハンガートーク」をしくみ化する
ANAは「雑談」「おしゃべり」を奨励するだけでなく、ハンガートークをしくみ化し、ノウハウを社内に蓄積する試みもしています。
一般的に、1件の重大事故の影には29件の軽い事故があり、その背景には300件の「ヒヤリ」とか「ハッと」する「ヒヤリハット」と呼ばれる人間のエラーが起きているといいます。これを「ハインリッヒの法則」と呼びます。
ANAの運航部門には、パイロット同士の「ハンガートーク」を発展させた形で、運航乗務員が「こんなヒヤリハットを経験しました」という発言をレポートで共有するしくみがあります。