──見えてきたのは何ですか?
アジアでは、多様な環境にそうとう早い時期から適応していたということ。人類が居住していなかった熱帯雨林に行き、ヨーロッパより寒いシベリアに行く一方、人類最古の渡海でオーストラリアに進出している。芸術とは別の形で、それまでの人類ができなかった新しい行動をしてるんですね。つまり、僕らの祖先もクリエイティビティがあるじゃないかと。ヨーロッパのような芸術作品は残っていないけど、アジアではその前の人類が突破できなかった壁を突破していた。
──そして東の果て、日本列島へは三つのルートで渡来した……。
日本では3万8000年前から遺跡の数が爆発的に増えてるんです。これはその時期ホモ・サピエンスが渡来したとしか考えられない。
日本に残るユニークな例として、よそでは出土していない台形様石器や円形キャンプのような環状ブロック群の跡、そして世界最古の落とし穴や往復航海があります。中でも黒曜石採取のため産地である神津島との間を往復航海するなどは、渡来してすぐにやっている。これは驚くべきことです。「往復」とは、「漂流」と違い、航海術を持って意図して行っていたことを意味しますから。
「海にチャレンジ」する姿勢に惹かれた
──日本人の祖先の足取りをたどって、魅了された点は何ですか?
あえて言うなら海へのチャレンジですね。ヨーロッパでクロマニョン人は航海していない。実は沖縄の海に、人類の海洋進出の歴史を探るうえで重要な手掛かりがあります。
今、「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」を準備中です。今年7月にまず与那国島─西表島間75キロメートルを、来年は台湾─与那国島間200キロメートルを、推測しうる当時の材料・技術で実験航海するものです。今年分の活動資金として、クラウドファンディング(ネット上での支援金募集)で目標2000万円に対し2620万円が集まりました。
沖縄ルートの航海は、一筋縄ではいかない本当に困難なチャレンジです。対馬ルートは朝鮮半島─対馬間、対馬─九州間が各40キロメートルくらいで、一応目視できる。一方沖縄ルートでは、小さな与那国島は台湾からは見えない。見えないほどの距離を原始的な舟で航海するうえに、世界最大の海流で流速毎秒2メートルという黒潮を横断する。
最短距離の所を横切ろうとしても黒潮に流されてしまうから、もっと南から出航しなきゃ島にはたどり着けない。いろんなミステリーがあるんです。しかもその先、宮古島から沖縄本島までは220キロメートルもあって、これはもっと遠い。さらに難関が待ち構えているわけですね。これを突破して、沖縄の島に3万年前くらいに遺跡が現れ始める。
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