高齢化率3割以下、人口8000万を目指す
アベノミクスの目玉の一つである地方創生では、東京一極集中が人口減の元凶とされていた。しかし、5年後には東京都区部も人口減に転じる。早晩、地方で急激に進む高齢化と人口減が東京で始まるのだ。東京を弱めても問題の解決にはならない。では日本最大の危機である人口減にどう対応すべきか。本書は前日本銀行総裁、元財務事務次官ら賢人が集まり、100年後も経済活力を維持するための包括的な政策を提言する。
放置すれば今世紀末に40%の高齢化率の下で人口は5000万人へ減少する。人口減が低成長の原因となり、マイナス成長の定着で生活インフラの更新も困難になる。ただ人口政策は懐妊期間が長く、安倍政権が掲げる50年後の1億人維持は現実的ではない。とはいえ、ある程度の人口維持も必要だ。本書では人口減を緩和しつつ、同時に人口減に適応する二正面作戦によって、高齢化率を3割以下に抑え、8000万人を目指す。極めて重要な視点である。
これまで社会保障では高齢者ばかりを優遇し、先進各国に比べ子育て支援など家族関係支出が極端に少なかった。長期的に見れば人口も社会の内生変数であり、少子化の流れを転換すべく、GDP比で3%の家族関係支出を提言する。また人口増大期には、開発の名の下、山の斜面を切り崩し居住空間を広げてきたが、地方活性化に必要だったのは集中と選択であり、今後は撤収も有力な選択肢だという。移民政策についてもかつて日本が渡来人を尊重してきたことを力説、転換を訴える。
それにしても、当初、少子化問題には抵抗勢力が存在しなかったにもかかわらず、なぜ先送りされてきたのか。まず、戦中の「産めよ殖やせよ」政策への反省で、政策立案を担う省庁の官僚が敬遠していた。長期的問題は得票につながらないため、人口問題をライフワークとする有力政治家も現れなかった。
今でも人口減の経済成長や財政へのインパクトは十分に認識されていない。少子化対策担当相も専任ではなく、兼任で済ませるケースがほとんどだ。何よりアベノミクスでは、積極的な財政、金融政策で景気が回復しさえすれば問題が解決される、という楽観ぶりだ。本書は次世代省の設置などを求めるが、実際には危機感に欠け、問題解決のための組織作りもほど遠い。
団塊ジュニアが出産期を迎えた1995~2015年が人口減対策への橋頭保構築に決定的に重要な時期だったが、第3次ベビーブームへの根拠なき期待で、無策の日が過ぎた。このままでは、本書が掲げる8000万人維持も夢物語に終わるのではないかと、心配だ。
日本再建イニシアティブ
一般財団法人。福島での原子力発電所事故の原因究明をテーマとして、2011年9月に設立された独立系シンクタンク。その後、各種の国家的課題について研究、提言を続けている。報告書は英語でも発表し、国の内外で課題に取り組むことを鮮明にしている。
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