期待役割と陥りがちな思考の罠とは? ミドルリーダー座談会-Part1
■全社戦略を「自分のもの」にする(井手)
戸津:ミドルが最も陥りがちな落とし穴として挙げたいのは、まさに先ほどお話にあった、「戦略は上が決めるもの」という決めつけだと思います。戦略立案や、それをどう実務に落とし込むかというようなざっくりとした部分は企画部隊がボードメンバーとやっておけば良いと思います。ただ、実際に現場をハンドルしている人たちが、単にそれを言われるがままに行うのでなく、背景まで踏まえて行動することが大事だと私は思っているんですね。そうすれば、さらにその下に連なるアルバイトも含め、現場で動く皆の理解が促進されますし、何か問題が起きたときの対応能力も高まります。良い意味での工夫も生まれてきます。
外食チェーンは本部があって店舗があってその先にアルバイトがいるという構造になっています。このラインで指示や命令がストンと落ちていけば綺麗に動きます。ただ、本部と店舗の距離が物理的に離れていたり、店舗ごとに経験的な差があったりといった環境もあって、どうしても“伝言ゲーム”になってしまうというか、雑になってしまう部分があります。そこで現在、うちのメンバー・・・、本部と店舗の中間や、経営と現場の中間といった、まさにミドルの立場で動く人たちには、「なぜ、このような決定になったと思うか?」、「あなただったら、この決定についてどんな解釈をする?」といった投げかけを意識的にするようにしています。
荒木:そこにはレインズインターナショナルの・・・“個店化”という表現で良いのでしょうか、個別の判断を店長さんが行い、ある程度の裁量を持たせてやっていこうというような方針もあるわけでしょうか。
戸津:そうですね。2007年にMBO(Management Buyout)を行ってからの経営改革は、原則的には中央集権国家をつくっていくという方向性で進んできました。その意味では、「言われたことをきちんとしよう」とか「やらなければいけないことをやっていこう」というのが必ずしも悪いこととは捉えていません。KPI(Key Performance Indicator)評価や、PDCAの徹底を本部がしっかりと制御していこうと。そういう進め方が基本にはあります。
ただ、その一方で、外食というのはかなり波の激しい業界です。地域差もあります。私たちの本部は六本木にあって、六本木でデータを見たり、物事を考えたりしているわけですね。しかし当社は北海道にも沖縄にも店舗を持っています。そうすると時々刻々と動く顧客や競合環境の変化をリアルタイムで捉えて即応することは現実的には難しい局面も出てくるわけです。
例えば今、大阪を中心とした関西圏は経済的に厳しい状況に置かれていますが、「となると、同じ都市だからと言って、東京と大阪を同じような概念で見ては駄目だよね」と。で、具体的にどうするかと言うと、経営企画は本部に集約されているので、「では本部の人がいちど大阪に来てください」となります。でも同時に「行ったところで何が分かるんだよ」と(笑)。本部の人間が一日行った程度で何が掴めるのかという話になりますよね。規模の問題なのか関わる人数の問題なのか、その辺の捉え方は色々あると思いますが、とにかくこうした縦に連なる組織が機動的に動いていくためにはミドルリーダーの戦略思考という部分がとても重要なのではないかと思っています。
井手:「解釈」とか「アジャスト」といった機能ですよね。とりわけ複数の事業体を束ねる企業などで、社長が出した全社としての大方針をどう事業に落とし込むか、また事業相互の関係性をどう捉えるかということ。例えば私の前職で言えば、グループの社長が言うのは「固定と携帯の融合を考えよう」とか「固定への投資を少し抑えて、携帯に持っていこう」とか、とにかくそういった抽象度の高いビッグワードがギリギリのところなのです。これを各々の事業にあてたとき、どのように具体化し、アジャストしていくのか。そこはやはりミドルリーダーが考えなければいけないことと思います。