期待役割と陥りがちな思考の罠とは? ミドルリーダー座談会-Part1
■「中間管理職」の殻を脱しきれないミドルリーダー像(荒木)
荒木:先ほど「頑張りすぎてしまう」話を聞いていて思ったのですが、動いていれば自分の仕事が正当化されるというか、やった気になれるという部分はあると思います。逆に言えば、動かずに考えているのは怖い、ということもあるのだろうなと。冷静に本来のイシューを考えれば、「シュリンクさせなければいけない」「これまでとはまったく違うことをやらなければいけない」といったことは分かるはずなのに、「動かない怖さ」という引力があまりに強すぎて、とにかく目の前の仕事で数字を作ってしまう、というか。もちろん頭でっかちも困るので、大切なのは両者のバランスなのですが、運動量は目に見えやすいので「今日の俺、営業先をたくさん回ってよくやったな」など満足しやすい。
戸津:「動いていなければいけない」という気持ちは強く持っていると思います。特にミドルは現場が見えていますし、立ち止まって考えていても、やはり何か言われてしまうような部分がありますから。だから、どうしても動きながら考えるという“美徳”に陥ってしまう。それは大概において、考えないで動いているだけと同義なのですが(参加者笑)。
藤井:「現場に近いほど動いていたほうが安心」というのは本当に仰るとおりと思います。一方で管理部門は、「動いていないほうが安心」なんですよ。これは感覚的な印象ですが、、人事部門でも特に制度企画を担う人たちはスピーディーには動かない傾向にある気がします。ちょこちょこ動くと社内を混乱させる危険性があると認識しているのかもしれません。
だから、周囲が「もっと早く動いて欲しい」と思っても動きません。現場にとっての動くということ、あるいは人事にとっての動かないということは、いずれも表出する動きは違えど、それぞれにとっての“安全領域”ということなのでしょうね。とにかく「ここにいれば安全だ」と。同じことを繰り返すのは安心感を伴いますから。そうした中で、何か新しいこと、やったことのない未知の領域、あるいはリスクが大きい領域にあえて出て行こうと思える人は、「それが絶対に重要で正しいんだ」と信じているんですよね。そうでなければチャレンジできませんから。
井手:、「いらん仕事ばかりつくって」という経営の方の本音を耳にすることもあります。もちろん現場は必死で仕事をしていて、それは評価しているのですが、「本当に必要か判らない仕事をつくっては、残業ばかりして・・・」という思いもあるようです。
そういうときはBPR(Business Process Reengineering)が有効ですね。つまり、肥大化した根雪業務や組織を見直す手法です。最終的には部門長として相応しい人物の見直しが必要になる時もあります。縮小していくことを会社のために許容出来る人です。このあたりは皆さん理解できると思いますが、やはり部下の数が増えると嬉しくなるじゃないですか。そこを抑え、自身の置かれている状況を理解し、最少人員というものを許容出来るのかどうか。「5人もいらないです、3人でいいです」と言える人が必要なわけです。
戸津:ところが、部下を抱えてしまう人がかなり多い、と?
井手:抱えるんですよ、嬉しいから(笑)。
戸津:言葉は悪いのですが、「尊敬される上司でいたい」という気持ち・・・見栄の部分が出てきてしまうわけですね。そういった要素が戦略思考の邪魔をしている側面は否めません。私が「ミドルとして今イチだな」と思うマネジャーを見て感じるのは、彼らの拘りが経営の意思よりもむしろそれを下に語っている自分自身にあるという点です。その姿に酔っているわけです。語っている内容自体は伝言ゲームなんですが(笑)。
井手:「俺って慕われてるぜ」とか(笑)
戸津:なかなかそういうところから脱皮できない人はいると思います。割と親分肌で、実際に下から慕われている人も多いですね。別に彼らが古いとは言いません。ただ、良くも悪くも人情に引っ張られてしまうというか、右脳的な人は多いかなと思います。その人たちが左脳的な判断も出来たらなお良いのですが。で、結局、そこで阻害要因になるのは現在の地位ですとか、あるいは、意識しているか否かは別にして、自分に対する信望ですとか。「俺が、お前らを守ってやる」というような。とにかくそういった要素がノイズになっていると感じます。
荒木:その意味では、文字通りの「中間管理職」的な役割のまま満足して、その殻を脱しきれないというところはありそうですね。