期待役割と陥りがちな思考の罠とは? ミドルリーダー座談会-Part1
でも本当はいったん立ち止まり、「3000万円って何?なんで3000万円なの?」というようなことを考える必要があるのだと思います。自分をとりまく環境や自部門の戦略などを勘案すれば、「これだけリソースを張っているのに3000万円だけでいいの?」とか、「なぜ利益ではなくて受注金額を目標にするんだろう?」とか、色々と問いが浮かぶはずです。それを、とにかく「3000万円どうしようか」と考えて、「まず500万円分はあいつに任せて・・・、あとは2人採用して・・・」となるのは思考停止状態と言われても仕方ない。
つまり、戦略について考え、深め、その背景を理解する、というコミュニケーションが現場の中でどれだけなされているかの問題ですよね。そういう文化がないと、伝えやすい数字だけがひとり歩きし、それが上意下達で届いて終わりになってしまう。
戸津:言われた3000万円を作ることが自分の役割だと感じてしまうんですよね。でも一方では、ある種の自己否定、自社の否定にもなりかねませんよね。以前の私もホールディングスから幾らと言われるとですね・・・(一同笑)、正直なところ、それを疑うことはあまりありませんでした(笑)。
どこまで前提を疑うかというのは、自分への期待役割や経営への信頼がどこまであるかにも依存するでしょうが、ただ、情報量の差のようなものはあるのでしょうね。例えば、私の情報量であれば、誰かのMBOにある「3000万円」という数字について、必要性や背景を全体から捉え、すぐに説明できます。「あなたの部署はこれぐらいです」「あなたの店舗はこれぐらいです」「あなたのチームはこれぐらいです」と言われた部課長クラスの全てが、そこまでの説明ができるかというと、心もとない。でも、中央集権の経営の中では、彼らが口にするかもしれない「全体の予算や方針がこれこれこうだから、我々はこの数字を目指すんだ」という説明は経営への信頼の証かもしれない。それを戦略思想の不在と考えるとすると、すごく自己否定的になってしまうのではないのかなと。難しいところです。
井手:「経営を疑う」というより、「自分の身を守るために、しっかりと議論する」ことが必要なのだと思います。
例えば、我々コンサルの場合ですと、お題を受けたときにはそのお題自体を疑ってかかるという作業を並行して始めます。たとえば「業界2位の当社が1位になるためにはどうすれば良いですか?」というお題が投げかけられたとき。もちろん、それはそれで解を考えます。ただし「この業界で2位の会社が1位になることにどんな意味があるのかな?」という問い自体も考え直さなければいけない。無論、規模が大きく効く業界であれば1位になるということにもひとつの意味があるとは思います。しかし規模でなく、たとえばドミナントで密度の方が効くという話であれば、経営陣のそうした思考回路をまず外さなければいけないかもしれない。そんな風に、コンサルには貰ったお題を再定義する仕事があるわけです。加えて、お題を再定義する作業は、勝手にやってしまっては駄目なのです。でなければ、「言ったとおりにやっていないじゃないか」ということになるからです。期待に応え、かつ本当の意味での成果を上げるためには、やはり背景理解が欠かせない。
「シェア1位」以前に、最初のお題が“3000万円”の場合もあります。そこで、「なぜ3000万円なのでしたっけ?」と、設定されたお題の裏側を聞いて初めて、実はシェア1位という本当のお題を引き出せたりする。それでようやく、「シェア1位で本当に良いのでしたっけ?」という話が始められます。
そこから初めて目標に向かって何をするかという思考がはじまります。とにかく目標を自分のなかにインストールする際、上司が持っている本当の思いを暴きにいくということをしないと自分の身も守れません。
藤井:そのミニチュア版として、上司と部下のあいだにも同様の会話があるべきということですね。
井手:そうそう、そうなんです。