期待役割と陥りがちな思考の罠とは? ミドルリーダー座談会-Part1

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《ミドルのための実践的戦略思考》特別企画:ミドルリーダー座談会-Part1期待役割と陥りがちな思考の罠とは?

参加者:
井手伸一郎 A.T.カーニー アソシエイト
戸津涼 レインズインターナショナル 取締役執行役員
藤井久仁子 エムティーアイ 人材開発部長

ファシリテータ:
荒木博行 グロービス経営大学院 教員

■ミドルリーダーに戦略思考の“日常化”を(荒木)


荒木:「ミドルのための実践的戦略思考」も瞬く間に11回を掲載し、お陰さまで多くの反応をいただいています。その中で改めて感じるのは、経営戦略を勉強されているミドルの方は確かに多いのですが、一方で、それを現場レベルに落とし込んで、日々の行動にまで繋げている人は非常に稀、ということ。

シャープでもアップルでもいいのですが、どこか企業の戦略について「あそこの戦略は~だ」ということを語る人は多いですし、語りたがる傾向もある。そういう日常業務から離れた観点では、経営戦略の概念は定着していますし、とりわけ差別化戦略やコストリーダーシップ戦略といった基本的なセオリーや「5 Forces」に代表されるフレームワークを知っている人は確実に増えているように感じます。もちろん表立って「自分には経営戦略や戦略思考みたいなものは不要だ」と言い切る人はいませんが、「私は経理担当ですから」とか「一営業担当ですので」などの言い方で、内面的な乖離感を聞くことは多いように思います。

ミドルの方であっても実際には現場において少なからず意思決定の機会はあると思うのですが、いろいろな方の話を聞いていると、戦略的な思考を挟み込むことなく物事を進めてしまっているケースが散見されます。例えば市場選択一つをとっても本来は、その市場の魅力度や自社の優位性構築の可能性といった最低限、押されるべき論点があるはずですが、「上司はどう思っているのだろう?」、「今回譲ったら借りが作れるかな?」といった社内事情にのみ配慮して結論づけたり、さらには「迷ったら厳しい道を選べ」といった座右の銘のようなものに飛びついてしまったりするという話まで聞こえてきます(参加者笑)。本来は経営の原理原則に寄り添い、もう少し丁寧に考えることも可能と思うのですが、いざ意思決定となると様々な現場の引力に容易に負けてしまう訳です。“しびれる”ほど厳しく難しい意思決定の場面であればあるほど、中途半端に聞きかじった戦略論なんて何の役にも立たない。こうしたミドルの方々のお役に少しでも立てればというのが、「ミドルのための実践的戦略思考」を執筆しはじめた動機だったわけですが、実際に読まれた方々の反応を見て、ますます問題意識を強くするに至っています。

トップ・マネジメントが考える戦略というのは当然あって、それはものすごく重要です。そこは誰も否定しないと思います。ただその一方で、ミドルの方々が戦略的思考を持って視野を少し変えたり現場でひと工夫をしたりすることでも仕事の質は上がっていく。そういうことを改めて伝えていかないと、と思っているのですが、どうも架空のストーリーだけでは説得力に欠けるわけで、その説得力を増すためにも、皆さんのように実際に現場で活躍されている方々がどんな観点で物事を見ているのか、ということを今回は生の声として届けられればと思い、座談会にご協力をお願いした次第です。

お三方のご経歴については別途プロフィール文面(本稿末尾に掲載)などもいただければと思いますが、まず、井手さんは、戦略コンサルティングファームA.T.カーニーのコンサルタントとして、まさにこの領域で日々、様々な企業のリアルタイムの戦略立案に関わっておられます。今日はその観点から、一般に言われる経営戦略の理論や手法につき実学として「これは使える」「これは使えない」とか、あるいは「こういうことを意識したほうがいい」といった考えを聞かせてもらえればと思います。また一方では、移動体通信キャリアでミドルリーダーとして活躍されていた際のご経験からも語っていただけることが多々あると期待しています。

戸津さんは、「牛角」や「しゃぶしゃぶ温野菜」といった外食チェーンを束ねるレインズインターナショナルで執行役員の職責にあり、既に“ミドル”ではないわけですが、その視界からミドルで頑張っている人たちを見たとき、「もう少し、こういう考え方をしてくれたらいいのに」「こういう奴はやはり良い打ち手を考えるな」など思うことをお教えいただきたく思っています。また若い頃を振り返り…、といっても今もお若いわけですが(笑)、ご自身がミドルリーダーであった際に意識していたこと、苦しんだことや、ブレイクスルーのきっかけになった考え方なども伺えればと思います。

藤井さんは「music.jp」などモバイル向けのコンテンツで躍進してきたエムティーアイの人材開発部長として、またこれまでのキャリアにおいても客観的に“人財”というものを見続けて来られました。その視点から魅力的なミドルの像を語っていただくと同時に、戦略と人事の関係などもお話しいただければと思っています。経理や人事など間接部門に所属する方が「戦略は役員や経営企画室の考えること」など言われるのを時折、聞くのですが、「実はそんなことではないよ」というお話があるのではないかと。

いずれにしても今日は皆さんから、そうした、現場感やリアリティのあるお話を伺えることを楽しみにしています。

 

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