なぜ山の温泉旅館でマグロの刺身が出るのか 旅館にとって大問題の「平日集客」がネックに

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赤身のマグロが山間の旅館にも出てくるのには理由がある

「山の温泉まで来て、赤身のマグロか」――。せっかく人里離れた山間の旅館に来たのだから、都会ではあまり食べられない新鮮な川魚や山菜などを食べてみたいもの。それなのに、「なぜ、赤身のマグロなんだ」と興ざめした方も多いのではないだろうか。テーブルに運ばれてくるものは、マグロ赤身、サーモン、ホタテ、甘エビといった海産物がほとんどだ。

その理由として誰もが想像つくのが、いずれも「冷凍保存の効く食材だから」という点だろう。旅館では、量の増減はあるものの全ての利用客にほぼ同じ献立を出す。そのため、大量に仕入れられる食材が必要なのだ。地産地消の食材では仕入れ量が安定しなかったり、仕入れ値が変動したりするため、提供しにくいのが実情だ。

ほかにも理由がある。旅行会社のパンフレットに載せる際に、「赤い食材」が好まれるという事情だ。例えば、マグロを筆頭に、エビ、カニ、キンメ、牛肉と「赤もの」の写真を前面に出すことで引きが強くなるという。一方で、アジやサバ、フグ、豚肉、山菜といった「青もの(白もの)」では注目を引きにくい。「赤ものは高い食材なのでは…」という解釈もあるだろうが、いやいや、手摘みの山菜などはA5等級(高格付け)の牛肉よりも単価は高い。あるとしたら「高いというイメージ」だろう。

マグロが好きなのは誰か

マグロが日本人の誰にでも比較的に好まれる食材であるという理由もある。子供はマグロが大好きだし、シニア層も昔はぜいたく品だったマグロを好む。一方で、川魚はにおいや小骨が多くあるイメージが強く、あまり好まれない。ウニあたりも好き嫌いがあって意外に嫌われたりする。最大公約数的にネタを選んでいくと、結局、マグロ、サーモン、ホタテ、甘エビというラインナップになってしまうのだ。

マグロが好きな地域性も背景にあるようだ。草津温泉や伊香保温泉など名湯の多い群馬県の旅館女将から「群馬県人はマグロが大好き」と聞いたことがある。家計調査(総務省統計局)によると、マグロの消費量が多い県庁所在地・政令指定都市では、前橋市(群馬県)が堂々の4位にランクインしており、「群馬県民はマグロ好き」は統計上からも言える。

1位の静岡市は、マグロ水揚げ高が多いので理解できる。静岡県のお隣の山梨県甲府市をはじめ、その後に続く北関東2市のランクインが興味深い。他の魚介消費量と比べても、マグロは東日本での支持が高い。そのため、東日本に住む利用客の多い温泉旅館ではマグロの給仕比率が高いとも解釈できるだろう。

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