なぜ山の温泉旅館でマグロの刺身が出るのか

旅館にとって大問題の「平日集客」がネックに

しかし、日本の人口が減少していく時代にあって、今後の観光に求められるのは「商圏の拡大」だ。「いま来ている客」にばかり目を向けるのではなく、新たな客層を狙うと同時に、クリエイティブ・クラスの多い都会在住者にも来てもらわなくてはいけない。そのためには、マグロばかり出していてはいけないと思うのだが、実態はそう甘くはない。

背景には、地方の温泉旅館にとってのアキレス腱ともいえる「平日の集客」という問題がある。旅館は土・日曜日や祝日に集客が集中し、平日は閑散としている。そのため、平日の宿泊客をいちばんありがたがり、重要視する。ここ1~2年は、平日に訪日外国人客が増えてきたが、まだ全ての地方旅館にまでは行きわたってはいない。旅館が旅行会社を大切にするのも、平日に宿泊客を送ってくれるためなのだ。

日本人の中で、平日に来てもらえる客層の代表と言えば、シニア層だ。それも地元や近隣県のシニア層である。平日に旅館に行ってみるとわかるが、「シニアの楽園」と化している。そうした地元や近隣県のシニアが好む食材を出し続けているというのが、実はマグロを出し続ける温泉旅館のいちばんの理由なのだ。

高齢者以外の平日需要は学生頼み

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草津温泉の年齢層別の客足(2016年1~3月)。中でも、赤色折れ線の「中年層」は落差が激しい(緑色=若年層、紫色=老年層)  出所:経済産業省「 観光予報プラットフォーム(β版)」

平日の宿泊状況が悪いのはデータからも明らかだ。複数の宿泊予約データベースを加工したビッグデータである、経済産業省の「観光予報プラットフォーム(β版)」で、人気温泉地のひとつである草津温泉(群馬県)の2016年1~3月分を見てみると、確かに週末は満館だが、平日は空きが目立つ。

年齢層別に比較すると、平日にガクンと落ちているのが「中年層」。働き盛りの層で、「週末には旅に出るが、平日は旅に出ない」層だ。一方、「若年層」が2月に入りグッと増え、平日を埋めている。これは、大学が春休みに入るために増える、学生の卒業旅行需要などだ。この層は4月になると沈静化していく。「老年層」は草津温泉の場合、ボリューム全体としては小さいが、曜日による変動は少ない。平日に限っては「中年層」を超える日もある。

居住地別に調べてみると、週末集中型は東京都からの宿泊客で、平日を埋めているのは、その他の関東圏からの宿泊客だ。このことは、草津温泉に限ったことではなく、全国的に「週末は都市部からの生産年齢層、平日は近隣県のシニア層」が、それぞれ中心となっている。

旅館は、仕入れや在庫の関係もあり、毎日来てくれる客層に献立も合わせていく。そのため、若者が残さずに食べ、シニアの好きなマグロをデファクトとしていくのも致し方ない面がある。

私たちが堂々と「山ではマグロではなく、地産地消の旬のものが食べたい」と主張するには、もっと休みを取って「平日にも旅に出る」必要があるのだ。

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