味の素「労働時間短縮」に隠れた本当の意味 社員も会社も効率的な働き方を追求する

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前述したように、意識を改革することで社員の労働時間に関する感度を高め、会社が用意したさまざまな選択肢の中から、社員一人ひとりが、最も効率良く働けるスタイルを自分で見つけていく。そのことこそが味の素の目指す姿なのである。

社員一人ひとりが個人として尊重され、効率よく働く結果、会社全体としても労働時間の短縮が実現し、ひいては競争力の強化にもつながるというのが、味の素流の考え方だ。

最後のポイントは、味の素の労働時間の短縮の取り組みには、「経営トップのコミットメントによる裏付けがある」ということである。

味の素のホームページでも確認できるが、トップが、経営理念において「味の素グループWay」の4本柱の1つとして「味の素グループの事業に参加する全ての人の人間性を尊重し、その人が成長し、能力を最大に発揮できる集団になります」と、人に対する考え方を宣言し、これがワークライフバランスやダイバーシティを実現するための具体的施策に紐付けられて、全社に浸透している。社員各自が安心して、自分なりのスタイルで働くことができるわけである。

社員が萎縮してしまっては意味がない

もし、価値観が浸透しておらず、社員が、「時差出勤や在宅勤務なんかしたら、上司から『勝手な奴だ』という評価を受けるかもしれないので心配だ」というような萎縮した考えを持ってしまうようならば、味の素流の効率的な働き方は実現しないだろう。

また、ワークライフバランスやダイバーシティの実現にあたり、職場単位での解決が難しい課題が生じた場合には、それを解決するための経営主導による仕組み作りも機能しているということである。

筆者はここまでの話を聞いて、味の素の先進的な取り組みに感心する一方で、逆に自由すぎて効率が悪化することはないのかという疑問を持ったので、それを味の素人事部にぶつけてみた。

例えば、スーパーフレックスタイム制ではコアタイムが無いため、全体会議などはどのように招集するのか。この問いに対して、味の素人事部担当者は「自主性が尊重される働き方によって、むしろ社員に責任感が生まれ、スーパーフレックスタイム制を導入したからマネージメントがしにくくなったという話は、どの部署の責任者からも出てきていない」と説明した。

会議の予定などは、あらかじめ関係者で共有しているスケジューラーにできるだけ早く入れるので、社員も自分に関係がある会議を見つけたら、その点を踏まえて勤務予定を立てるという信頼関係が成り立っているということである。

会社が社員の自主性を尊重し、社員も会社の想いに応えるという、理想的な労使関係が味の素には存在している。

味の素はこれらの取り組みを進めていくことによって、基本給を変えなくても20分の所定労働時間の短縮は吸収できそうだという判断に至った。突然降って沸いた話ではなく、会社と社員が一体となって、さまざまな職場改善活動に取り組んできたからこそ実現できたといえる。これは味の素に限らず、労働生産性の向上を追求するあらゆる企業にとっても参考になりそうだ。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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