財務諸表に表れない資産の有効利用を、知財も自前主義脱皮へ
「オープンイノベーションという言葉自体は、ここ1~2年の間に急速に広まってきた」と、独立行政法人工業所有権情報・研修館流通部の前田仁志部長は言う。「自前主義からの脱却を目指す」「使わない特許はみんな出す」といった話は規模の大小を問わず経営者が口にし、実際、研究開発の相乗りも珍しくなくなった。富士通など自社の未利用技術を公開し、ともに事業化を目指す提携相手を探す企業も増えている。また特許庁を中心として、特許情報の流通の仕組みの整備や、その事業化を促進する動きも進行しつつある。
民間でも知的財産権(知財)流通を専門とするコンサルティング企業や弁理士事務所は100社を超えるが、まだまだ十分とはいえない。
特許は年間40万件出願されるが、そのうち審査請求されるのは20万件。うち10万件が特許権を取得するが、実際に活用されているのは半数の5万件にすぎない。残る5万件は未利用特許として放置されている。
特許権は出願から審査、取得に至るまでに1件当たり約20万円の費用がかかる。さらに特許権を維持するには年間数千~数万円が必要だ。しかも、維持期間が長くなればなるほど年間維持費は上昇する。「権利を維持し続けるのは、活用し収益を上げているから」と見なされるからだ。
事業化のタイミングを計るなど戦略があれば別だが、大半の未利用特許はそうした意識はなく、事業化のメドも立たないまま維持費だけが支払い続けられている。ほかにも特許申請されないまま企業内に退蔵されている技術や、開発・試験研究費や開発に携わるスタッフの人件費を合わせると、膨大な技術が眠ったままになっている。
こういった財務諸表に表れない企業価値を堀り起こし、産業界を活性化させようという試みは、実は10年も前からあった。1997年に特許庁が流通事業支援担当部署を開設(2001年に工業所有権情報・研修館に移管)。全国に92人の特許流通アドバイザーと自治体に所属するコーディネーター53人が各都道府県単位に常駐し、有用な休眠特許の発掘からマッチングに至るまでサポートをする。相談は無料だ。