生物学的製剤は現在日本で7種類が使えるようになっており、点滴だけでなく、皮下注射で自己注射できる薬もある。遺伝子組み換え技術などを用いて作られる高価な薬で、高額療養費制度による給付を受けても、月額2万円以上の自己負担が必要だ。抗リウマチ薬・生物学的製剤とも、症状が消失した寛解状態が5年以上続けば、 休薬を検討してもよいとされる。
そして現在、さらに根本に働きかける治療の開発が進む。自己免疫疾患のような“免疫の暴走”は、血液中の免疫細胞であるリンパ球(T細胞)のうち、自分に反応して病気を起こすリンパ球を抑え込む「制御性T細胞」と呼ばれるリンパ球の働きがカギになる。
1985年にこのリンパ球を発見したのは、大阪大学特別教授の坂口志文氏だ。T細胞全体の約10%を占めるこの制御性T細胞のバランスが崩れると、関節リウマチなどの自己免疫疾患が生じる。「免疫系が自分に反応しないようなメカニズムをもう一回つくり直せれば、それが理想的な治療になる」(坂口氏)。限られた期間だけ薬を飲んで制御性T細胞を増やし、“軌道修正”するような治療の研究が進んでいる。同様に、花粉症などアレルギー疾患の治療への応用も期待されている。
がん治療への応用も進む
制御性T細胞の応用でもっと強い期待がかかるのは、がん治療だ。がん細胞は自分の体から生じた異常細胞であり、がんに対する免疫系の働きは自己免疫反応の一部でもあるので、制御性T細胞は、がんに対する攻撃能も抑え込んでしまう。
制御性T細胞を壊す抗体医薬を投与すると、がんを攻撃するリンパ球が増えることが分かっている。制御性T細胞の臨床応用が進んだことで、坂口氏は2015年、ノーベル賞の前哨戦とも言えるガードナー国際賞を受賞している。
アスピリン、ステロイド、そして、制御性T細胞……多くの医学の進歩が、関節リウマチ、そして、自己免疫疾患との闘いからもたらされたのである。
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