鎮痛薬はその後も進化し続ける。副腎皮質から抽出されたホルモン、ステロイドも、関節リウマチの特効薬探しから、1948年に見つかったものだ。その優れた炎症抑制作用により、発見者・抽出者は、1950年にノーベル賞を受賞した。
しかしそれとて、関節リウマチの症状を緩和する薬にすぎず、根本治療からほど遠い。腫れや痛みといった自覚症状を和らげるだけでなく、関節の中で起こっている骨の破壊を抑える治療が待望されていた。
治療に革新がもたらされたのは、1980年代だ。メトトレキサートは1940年に発見され、抗がん剤として実績があった。関節破壊の進行を抑える効能は1950年代に見つかっていたが、強い副作用のため普及しなかった。その後投与方法が工夫され、抗リウマチ薬(リウマトレックス®)として承認された(米国は1988年、日本は1999年)。
手術件数は激減、寿命も一般と遜色ない水準に
21世紀に入ると、さらなる革新が訪れた。まず、免疫抑制薬が登場した。その1つタクロリムス(プログラフ®)は、藤沢薬品工業(現・アステラス製薬)が、茨城県つくば市の土壌細菌から見つけたものだ。臓器移植の拒絶反応を抑えるために用いられていたが、メトトレキサートが効かない関節リウマチ患者にも使えるようになった。
そして、近年、生物学的製剤という画期的な薬が革命をもたらした。自己免疫反応が起こるのは、免疫細胞が、シグナルとなるTNF-αというサイトカイン(情報伝達タンパク質)を産生しているためだ。1993年、このTNF-αの作用を阻害する抗体が関節リウマチなどに対する治療薬として有効であることが報告されると、インフリキシマブ(レミケード®)を皮切りに、続々と抗TNF-α抗体が関節リウマチ治療薬として登場した。
一方、大阪大学名誉教授の岸本忠三氏は、別のサイトカイン、IL-6もまた、自己免疫疾患の発症に関わることを発見。中外製薬と共に開発したトシリズマブ(アクテムラ®)は、国産初の抗体医薬として、関節リウマチに対してはTNF-α阻害薬を上回る効果があるとされる。岸本氏は、この功績によって、ロベルト・コッホ・ゴールドメダルなど多数の受賞に輝いている(詳細は、拙著『新薬に挑んだ日本人科学者たち』参照)。
十分な治療法がなかった時代には、関節リウマチ患者は、一般の人より寿命が10年短いと言われた。だが現在、早期から積極的に薬物療法を始めることで、寿命は一般人と遜色なくなり、手術件数も激減している。
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