(第31回)2010年度新卒採用戦線を総括、2011年度の採用戦略のテーマを探る(後編)

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(第31回)2010年度新卒採用戦線を総括、2011年度の採用戦略のテーマを探る(後編)

採用プロドットコム株式会社
 前編では、採用数の削減による「質重視の採用方針」のもと、大手企業の特に技術職を採用する企業が、学生とのダイレクトコミュニケーションに注力した採用活動を展開したことを述べた。2010年度のような不況下の採用活動では、プレエントリー数や自社セミナーへの参加者数はほとんどの企業で大幅に増加する傾向が顕著だ。「質重視の採用」を目指すには、ある程度の母集団の確保は必要な施策だが、自社の採用キャパシティを超えてしまうと母集団形成が持つ本来の目的を逸脱する可能性が高くなる。「質重視の採用戦略」に欠かせない問題とは、「会いたい学生と確実に会う」ための機会(採用ステップや採用フロー)をどのように提供するかということにほかならない。

●採用数の削減で優秀層の獲得競争激化 2011年度は最適の採用フロー構築が欠かせない

 前編では主に理系の採用について述べたが、一方の文系学生はどうだったのか。文系学生は理系学生(昨今では主に大学院生)のように「専攻→スキルセット(基礎能力の裏付け)→企業がアプローチする判断基準」になりにくいことが前提だ。しかし、「質を重視する採用」方針を執る企業にとって前提が変わろうとも本質が変わることはない。ここで言う本質とは、削減が避けられない採用予算のなかで「会いたい学生とどのようにして確実に会うのか」ということであり、そのための採用ステップや採用フローをいかにして築くかということだ。
 「会いたい学生と確実に会う」ための手法として志望企業に対するOB・OG訪問が形骸化して久しい。採用プロドットコムの調査でも、2010年3月卒学生の志望企業へのOB・OG訪問社数は、「訪問0社は理系67%、文系64%。訪問1社は理系16%、文系14%」にとどまっている。不況の最中の就職活動だったが、この割合は景気が良かった昨年と比べてもほとんど変わりがなく、学生の“草食化”を示すひとつの傾向といえる。学生自らが“肉食獣のように”OB・OGを捉まえに動くことが期待できなくなった現在の採用活動では、同じ大学の先輩をルートとするOB・OG訪問よりも、自社のセミナ-に参加した学生に職種や性別など希望にあったリクルーターをマッチアップさせる方がダイレクトコミュニケーションは遥かに効果が期待できる。
 ほとんどの学生は就職ナビを就職活動の入口ツールとして活用しているが、前編で述べたようにターゲットによってはプレエントリーを待つだけでは採用しにくい層は厳然と存在している。
・就職ナビからのプレエントリーだけで採用フローに乗せれば十分なのか。
・全員通過させてしまうと自社の採用キャパシティをオーバーしてしまい、結果的に会いたい層と会えない状況を作ってしまうのか。
・就職ナビからのプレエントリーだけで会いたい層を採用フローに乗せるには不十分。他の施策を必要とするのか。
など
 次年度に向けて、まずは自社の採用ターゲットと現状の母集団とにどの程度のズレがあるのか、を分析し、ターゲットの就職活動とズレのない採用フローを確認・構築することが必要だ。
 また、今回の不況は、バブル崩壊後のように新卒採用そのものを凍結するケースは少なく、“減らすが(必要な人材は)採る”という方針をとる企業が多いことも特徴のひとつとなっている。

 文部科学大臣や国立大学協会(特に工学系教授が中心)が早期化する就職・採用活動に対して警鐘を鳴らす発言を繰り返しているが、その背景には採用数の削減によって、なお一層早期から優秀層の獲得競争に乗り出している企業の採用戦略がある。また、ビジネス誌などでよく特集が組まれるように、採用ニーズが高い学部や学科への進学者減少に歯止めがかからず、人材の質の低下が懸念されている構造的な問題も無縁ではないが、この場合は、早期化というより深化(採用ニーズの高い学科とより密接な関係を持つ、あるいは一部の大手メーカーにみられるように若手人材の供給先を大学だけに依存せず自前で多様化を試みる)という側面の方が強い。不況期の採用活動は、多くの企業で学生の母集団が増加する反面、採用経費等の削減によって説明会の回数や開催地域を絞り込まざるを得ないことから、採用方針の急激な変化となって表れている。
 「会いたい学生と確実に会えているのか」という「質重視の採用」の大前提となる採用フローの見直しや再構築は、「質重視の採用」を目指す企業にとって2011年度の採用戦略構築には欠かせない取り組みになるはずだ。
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