(第30回)<米倉誠一郎さん・後編>チャンドラー先生から受けた恩は学生に返したい

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 アメリカのプロフェッショナル・スクール、すなわちビジネススクール、ロースクール、メディカルスクールなどでは、28歳とか30歳から入学して学び始めます。そして、卒業する30代半ばくらいで第2の人生をスタートさせるような仕組みです。したがって、学部であるカレッジでは友だちと役に立たない談義をすべきで、それから、どこでもいいから働いてみて、自分の「行きたい、なりたい」と思ったものを改めて考える。ビジネスならビジネススクール、司法ならロースクールなど。日本もそんなシステムになればいいと思っています。人生は80年くらいですから、長いスパンでキャリアを考えた方がいいと思います。

●日本にビジネススクールが成り立たなかった理由

 なぜ日本にできないのかということを時々考えています。1つは出口がまだ良くない。すなわち、就職先がまだそれほどMBAを求めていない。もう1つは、より深刻ですが、世界を向いていない。スタンフォードにはフーバータワーがあって、そこの下に立っていると感じるのです。ここには世界で一番やる気のある学生たちが来て、「隙あらば」という空気をね。東大や一橋ではそのような空気は感じません。この2校は日本の中ではある程度勝ち組で、日本国内では誰にも侵されない。
 しかし、ハーバードといっても、競争の只中に置かれていて、世界市場での競争が当たり前なのです。トヨタとかキヤノンは世界市場で勝っている。他方、大きくても三菱東京UFJ銀行など日本の金融機関は世界ではマイナーです。アメリカのウォールストリートは世界を向いている。世界で最もクリエイティブな人が大勢います。なぜ、日本にできないのか?
 それは、インド人や中国人が一橋で学ばなければならないというものを提供していないからです。

 「アメリカで勉強したことが何か役に立っていますか?」とよく聞かれますが、僕はなんの役にも立っていないと答えています。ただ言えることは、あんなに辛いことができたんだから、俺にできないことはないと思わせる経験は重要でした。日本の大学は授業中によく居眠りをしていますが、アメリカの大学は寝ることなんてできません。分厚い本を何冊も渡され、「これ読んで、明日までにレポートをまとめてくること」とかね。それくらい厳しかったし、授業中に積極的に発言しない人は評価されません。しかも、それを不慣れな英語でやったわけですから、それは辛い経験でもありました。それから、一緒に過ごした友人たちは財産です。留学は絶対したほうがいいと思います。けれど、もう一回やるかといわれたら、あんなに辛いことはもう二度としたくはありませんが(笑)。
提供 トレンザ株式会社
(取材:田畑則子 撮影:戸澤裕司

米倉誠一郎<よねくら・せいいちろう>
1953年5月7日東京都生まれ。
企業経営の歴史的発展プロセス、特にイノベーションを中心とした経営戦略と組織の史的研究を主たる研究領域とし、経営史を専門とする一方で、関心領域を広く保ち、学際的であることを旨としている。『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、六本木ヒルズ・アーク都市塾長でもある。 一橋大学社会学部、経済学部卒業後、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。その後、ハーバード大学に留学し、Ph.D.取得(歴史学)。1995年より一橋大学イノベーション研究センター教授。著書は『経営革命の構造』(岩波新書)、『脱カリスマ時代のリーダー論』(NTT出版)ほか多数(公式サイト)
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