●ハーバードへ行く
一橋の大学院を出て、大学のスタッフとして採用された頃、「お前は本当にアホだ。アホだから、アメリカにでもいったらどうだ」と、当時、一橋に移ってきたばかりの野中郁次郎先生に言われました。その理由は、ある日、打ち合わせが東京駅の近くであって、野中先生と丸善で落ち合おうとなったのです。しかし、僕は丸善が書店だとは知りませんでした(笑)。僕の親父が丸善で買ったレインコートを持っていたから、丸善は洋服屋のことだと思っていたのです。それで、「アメリカにでも」という話になったのです。そこで、当時の上司だった今井賢一先生に「アメリカに留学したい!」と言ったら、「それは、いいな。それでどこへ行くんだ?」と。僕はアメリカの大学の名前は1つしか知らなかった。そう、ハーバードです。だから「ハーバードです」と先生に言うと、「おお、いいな」ってね(笑)。
●恩師アルフレッド・D・チャンドラーJr.
ハーバード大学には、チャンドラー教授という経営史の泰斗とも言うべき素晴らしい先生がいました。日本ではあまり知られていないのですが、「組織は戦略に従う」という言葉が有名で、ピーター・ドラッカーと並ぶような偉大な業績を遺した先生でした。残念ながら、今年の5月に89歳で亡くなってしまいましたが、先生に師事できただけでも、アメリカに行った価値がありますね。先生は、どんなに忙しくても学生にきちんと対応する。レポートにもきちんと直筆で1人1人の内容に応じたコメントを書く。これが、ミミズのような汚い字なので、判読するのに1時間くらいかかるのですが(笑)。
その他にも、自分よりずっと年齢の離れた年下の研究者のところでも、自ら訪ねて、いろいろと教えを乞うといった、そんな謙虚なところがあって、すごく尊敬されていました。私も学恩だけでなく、人生にとって多くの大切なことを先生から教えていただきました。
卒業式のときに、友だちが卒業パーティを開いてくれ、そこにチャンドラー先生も来てくれました。
そこで、「先生には、どうやってこの恩をお返ししたらいいかわからないぐらい感謝している」と伝えたら、先生は「お前は俺には返せないよ。自分の学生に返せ」と。
だから、僕は学生のために最大限努力しようといつも思っていますが、時々忘れてしまいますね(笑)。
●日本とアメリカの大学の違い
必ずしもアメリカが良いわけではありませんが、アメリカの大学は世界中から学生が来る、競争力がある。日本は国内だけしか見ていないから競争力がない。アメリカには、中国からも韓国からもインドからも来る、最高の学問水準を保っているからです。アメリカの大学の基本はリベラルアーツだと思います。そこでダブルメジャー、つまり、専攻を2つ持てて、例えば、音楽と数学を選考するなどという形で勉強をする。その後4~5年実社会に出て働いてから、やっぱり医者になりたいと思ったら、メディカルスクールに行く。この種の専門大学院をプロフェッショナル・スクールと呼びます。
日本のように、18歳で医者になると決めてしまうのではなく、25歳でやりたいと思うほうが、精神的にも人間として成熟していると思います。日本の医療ミスの大半は人的ミス。未熟なうちに医学部に入ってしまうからかもしれません。
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