フィギュア王国になれない日本のアキレス腱 カップル競技を取り巻く環境はとても厳しい

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だから、ソチ五輪での団体戦に関しても、そこに精魂込めて取り組むというよりは、比重は確実に男女シングルにあった。5位という結果にも、その精神的ダメージは選手サイドには大きくなかったのだが、日本連盟の関係者にとって事情は異なるものだった。それを端的に現したのが、冒頭の小林強化部長の発言だった。

「フィギュア王国」とは男女シングル、ペア、アイスダンスの4種目ですべからく強豪国であることを指す。ソチの団体戦の上位3国であるロシア、カナダ、米国は、日本が男女シングルで世界選手権覇者を輩出し続けようが、決して総合力では届かない伝統国。そこに食い込むためには何が必要か。

「力は出し切ったかなとも思うが、表彰台に届かなかったのは残念。頑張りましたが、やはりカップル種目の強化が必要」と同強化部長は続けたのだった。ペアとアイスダンス、ここに送り込む人材不足は誰の目にも明らかだった。あれから2年あまり、その道のりはどうなっているだろうか。

2015年4月、アイスダンスのトライアウトが行われた中京大を訪れた。バンクーバー、ソチと五輪2大会に出場したリード姉弟組が講師役を務める合宿に参加したのは10組ほど。中学生から大学生まで、カップル競技の未経験者からジュニア選手まで、氷上だけではなく、オフアイスのトレーニングメニューなどにも取り組んでいた。

シングルより難しい練習場の確保と費用問題

日本スケート連盟がカップル競技の有望選手発掘に本格的に乗り出したのは、ソチ五輪での団体戦採用が決まった2011年から。このような事業を年に数回繰り返しながら、競技人口の増加に取り組んできた。その成果を問われた小林強化部長は「牛歩ですね。いきなり選手が増えるわけではないですから、地道にやるしかない」。

参加した選手からは「なかなか練習できない」「教えてもらう専門的な先生が少ない」との声が聞かれた。一朝一夕で「フィギュア王国」になるには多くの難問が立ちはだかっている、それがトライアウトに密着しての印象だ。障害となっているのは大きく分けて2つある。費用と指導者だ。

費用面からみていこう。ちなみに、シングルのトップ選手ともなれば、練習場の貸し切り代、振り付け費、衣装代、トレーナー代、遠征費などで年間1000万円以上かかることもある。カップル競技でまず問題になるのが、練習場の確保だ。シングルの選手であれば貸し切りに加えて、所属チームでリンクを確保してのグループ練習も可能だ。そうすることで、費用をある程度は抑えることができる。しかし、カップルではそれが難しい。

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