(第28回)大手、安定志向の学生の意識をどのように引き付けるか?(前編)

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 学生の中には、進学するか“就浪”や“就留”をして、来年以降の景気回復に期待をかけ、就職活動をやり直す決心を既にしている者も少なくない。大手メーカーの採用担当者を務める東大出身のA氏は、自身の学生時代を回想し、次のように語ってくれた。
 「私も就職氷河期の後半に就職活動をした世代です。厳しい世相のなかでの就職活動でしたから、私自身も何かキャリアを身につけなければと国家資格の取得を目指し、セカンドスクールに通いました。上位大学といわれる大学の学生ほど、新卒切符を大事にした就職活動をしたがる傾向にあります。学生時代の友人のなかには“納得いく就活が全然できなかったので、留年して大学に残り、もう一度就活をする”と春先に早々に宣言した人も何人かいました。
 来年、つまり2011年卒の採用活動は11年卒の学生のなかにこういった“就浪・就留組”が相当入ってくるのは確実ではないでしょうか」
 このような状況の中で、中小企業が優秀な人材を採用することは決して容易いことではない。大手、安定志向の学生の意識を、中小企業が変え、就職志望度を高めさせる工夫こそが求められるのである。

●コミュニケーション密度が成功の秘訣

 採用がうまくいっている中小企業とそうでない企業を観察すると、学生とのコミュニケーション密度の濃さに大きな差があることがわかる。優秀な人材の採用に成功している中小企業は、コンタクトする学生の数を追うのではなく、ダイレクトに会うことのできる学生一人ひとりとのコミュニケーションにじっくり手間をかけている。学生が、この企業は自分のことを理解し、特別な存在として目をかけてくれると感じると、学生にとってその企業が特別な存在になり、規模の大きい企業を蹴ってでも就職したいと思うようになるものだ。

 ブランドとは「心理的価値」である。ブランディングとは、価格が廉価品の何百倍になってもターゲットとする顧客に"欲しい"と思わせる総合的な営みだといえる。
 採用活動でもよく"採用ブランディング"という言葉が使われるが、中堅・中小企業では何百人の学生を採用するために何万人の学生の心理的価値を高める必要はない。
 地味だが品質の優れたハンドメイドの製品や商品を望む顧客に相対するように、少数の学生の心理的価値を高める密度の濃いコミュニケーションに徹底して取り組むべきなのだ。

 では、どのようにコミュニケーション密度を高めるのか。これにはいろいろなやり方がある。合同会社説明会で多くの企業は、パワーポイントやスライドを使って一方的な会社説明をして、たくさんの学生にPRしようとする。たとえばこのような手法の逆手を取って、マンツーマンで学生と話し、学生のこれまでの就職活動のやり方などをじっくりと聞き、アドバイスをしてやると、学生に強い印象を与えることができる。
 (事実、このようなやり方を合同企業セミナーでも徹底して貫いている外食チェーン企業があり、この企業は一部の採用担当者のなかでは非常に有名な存在になっている)

 また、面接を採用PRの場でありコミュニケーション密度を高めるステップだと考え、面接の回数をわざと増やし、学生を理解しようとする姿勢をしっかり見せてみる。ある学生は、最終面接で自分の用意した質問に対して1時間以上かけて社長が丁寧に答えてくれたことに感激し、入社の意思を固めたと言っていた。このようなコミュニケーションの感動体験をいかに作るかが、中小企業の採用を成功させる鍵となるのだ。
採用プロドットコム株式会社
(本社:東京千代田区、代表取締役:寺澤康介)
採用担当者のための専門サイト「採用プロ.com」を運営。新卒、中途、派遣、アルバイトなどの採用活動に役立つニュース、情報、ノウハウを提供している。

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